4-3.オーバーラン

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「演奏後、小早川君言ってくれたの。『すっごくよかった!野乃華は勿論だけど、あのソロアドリブすごかったね!』って。今まで見た事のないような顔で……すごく目を輝かせて。なら、もう勝負なんて、いいかなって。」 頭を上げた先に見えたのは笑顔だった。 結果は無色の賞、失格だったけど、彼女は笑っていた。それだけの演奏ができたから、満足だと。 それは、野乃華だけじゃなかった。 笑顔を見せていたのは他の皆も。 「確かに、楓先輩が『一番かっこ、入るぞ』ってアイコンタクトした時は驚いたけど……あれで、あの方が良かったんだよね。」 「二番かっこ入っていたら、演奏止まっていたもんな。」 皆、許してくれている。仕方のない事だったと分かっている。 むしろ、あのアドリブは素晴らしかった。 それでも罪悪感から、口を開くたびについ、謝罪をしてしまう。 「……ごめんな」 「あー!もう!謝んなって!いつまでも引きずるな!そういえば……楓先輩はどこ行ったんだ?」 埒が明かない、と宏朋は話題を変える。 そういえば、楓の姿がない。 結果発表の時にステージ上でみて以来、この場に現れていないのだ。 「まだ会場のどこかに居るとは思うけど……」 「うーん。電車の時間があるから早く出なきゃいけないんだけどな」 会場から、本線でターミナル駅まで行く電車の本数は二十分一本だが、そこから美和町までのローカル線は一時間に一本あるか、ないかだった。 「あ、じゃあ……俺が探してきましょうか?」 爽介にとって、せめてものの罪滅ぼしのつもりだった。 「時間かかるようだったらみんなは先帰ってて」 「……分かった。こっちと合流したら連絡するわ」 「じゃあ、行ってきます」
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