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「どうして……それを」
「知りたいかい?」
「はい」
「嫉妬さ」
「嫉妬?」
見当もつかない回答に、爽介は思わず首を傾げる。
楓は何かに気づいて、ばつが悪そうに黙り込んでしまった。
「この曲は琴がアンサンブルコンテストで演奏したいから編曲して欲しいって高校生くらいの時から言っていたんだ」
「そんなに前から」
「完成は琴が大学生になってからだけど、それまでずっと楓君は琴の隣にいた。だから、きっと一緒に演奏するんだろうなって思ったよ」
突然、楓の名前が出る。
琴の隣にいた楓、と琴の父と嫉妬。
爽介の頭に一つの可能性が浮かんだ。
「もしかして、嫉妬って……楓先輩に対する?」
「そうだよ。琴が小学生の時、「楓と一緒に居たい」って君の隣を選んだことを思い出してね」
楓の放った「行かないで」が、琴を引き留めた。
それは結果的に、琴が父との別れを選択したことになった。
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