4-3.オーバーラン

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冬の十七時過ぎの空はもうオレンジ色に染まっている。 これからすぐに濃紺へと染められるだけだった。 恐らく、二人が次の電車に乗り込むときには夜の色へと変わっているだろう。 寒い。 冬のホームは暖を取る場所もなく、ただただ冷たいベンチに座るしかなかった。 改札を既にくぐってしまったため、駅構内へと戻るのも少し、面倒だった。 爽介と楓。 ホームの空気と同じで、二人きりの空間は静かすぎて冷え切っていた。 ベンチに隣同士座っていると、互いが息を吐くときに一瞬白が視界に入る。 それだけしかなかった。 勿論、そんな空気も長く持つはずがなく、爽介は耐えきれなかった。 流石に作曲者、琴の父の前では良い顔するにしても、爽介のミスを楓は許してないだろう。 そう、思っていた。 元々、全国大会という目標を設定したのも、メンバーを招集したのも、楓だ。 楓の、いや全員の大きな夢を打ち崩してしまったのは紛れもなく、爽介のミスだ。 脳内でぐるぐると不安が渦を巻く。 早く電車が来れば、せめてこのホームに誰かくれば少しはこの冷たい空気もどうにかなるかもしれないのに。 すぐにでもこの場所を立ち去りたい。 そんなことすら思った時だった。 楓が爽介に呼びかける。
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