4-3.オーバーラン

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「何驚いてんだ」 「あ、いや……そんな事言われるなんて思ってなかったから」 ぱちくりと瞬きする瞳を思わず逸らしてしまう。 けれども、すぐにその視線を楓に向けた。 知りたい事がある。それだけだ。 「なんで、そう感じたんですか?」 楓が見たかった世界の答えが粗方、分かってきた。 きっと、それが琴の見てきた、楓の見たかった、爽介の創り出した世界なのだろう。 確認するように、爽介は問うた。 「ステージで、一瞬だけ、お前が俺に見えた」 「俺が、楓先輩に」 あの時、楓の見た景色は、立ち上がった後、必死に脱線しかけた列車を率いるドラマーだった。 前線に立ち、全員を率いていく、その姿は爽介のはずなのに、鏡に映った自分のようだった。 一瞬だけ。そう映った。
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