4-3.オーバーラン

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突然された命令に思わず頭を上げた。 「どういうことですか?」と、涙でぐしゃぐしゃな目を楓の方にじっと向けると、楓は一度ため息をついた。 「俺は今日でサークルを引退した。もうお前の先輩じゃない」 「なんで、そんな事……」 楓が居なくなることが一番辛い爽介にとって薄情な言葉が吐かれる。 爽介の表情はみるみる絶望的になり、瞼に収まり切らない涙が零れていく。 しかし、薄情だと思われる楓の言葉の真意は意外なものだった。 「お前に先輩って呼ばれると、奏者としての時間が今日で止まりそうなんだよ……」 「どういうことですか?」 楓がぼそりと車内に零した言葉を爽介はちゃんと拾っていた。 けれども、拾った言葉の意味は分からなかった。 楓にとっての奏者としての時間とは一体。 琥珀の瞳でまじまじと見つめられる。 すると、楓も「あー、もう」と言いながら頭を掻いて爽介に氷の瞳を向けた。 「これから俺が卒業しても、いつかまたどこかで巡り合った時に、一奏者として対等にお前と向き合いたいんだよ!」 二人しかいない小さな列車の中で楓は思い切り叫んだ。
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