エピローグ

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正体を見破られたマスター、楓は、あぁ…とぽつり、声を漏らす。 「…いつから気づいてたんだ。」 「店に入ったとき。」 「閉店中なのに?」 おかしい。 わざわざ閉店後の店に偶然立ち寄るか?今日ここに来たのは偶然ではなく、必然。 爽介が二人きりでわざわざ昔話をするために閉店後にやってきたようにしか思えない。 「あぁ、違うんです。ここに来るのは2回目なんです。」 案の定、今日の来店は狙ってのことだったようだ。 と、なるとこの店に以前来たのか?そう問う前に爽介が、経緯を説明しだした。 「9月ごろだったかな。偶然来たんです。楓さんはその時居なかったんですけど…あれ…」 爽介の人差し指がステージの方を指した。 「ドラムとピアノ…」 「琴先輩のだったから…もしかしてと思って店の事調べたら、楓さんの店だったんですね。」 ステージ上のドラムとピアノは店を出すときに、琴の両親がくれたものだ。 あの後、ずっと眠ったまま、息すらしなくなって静かにこの世を去ってしまった琴を思い出すのが辛い。 せめて、琴の生きた証を、音楽を、琴の愛した楽器たちを、一番そばにいた楓が大切にしてくれるなら…と。 「琴先輩の事は…聞きました。佳貴から」 「そうか…」 琴が亡くなったのは5年前。 爽介は留学中だった。 葬儀にも出られないまま帰国したときには墓参りしかできなかった。 しんみりとしたカウンターにカクテルが注がれたグラスが差し出された。
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