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このような若者がこの店に来ることはあまりない。
普段は来店しない客層にマスターは少し狼狽えてしまった。
「いらっしゃいませ」
そのせいか、閉店後にも関わらず、つい、お決まりの挨拶をしてしまう。
すぐさま、「あぁ、違う」と首を振り、店のドアにぶら下がるcloseの文字を無視した客に断りを入れる。
「すみませんが、今夜はもう店を閉めてしておりまして……」
閉店後に酒に酔って来店する客も稀にいなくはない。
そういった客にはこの言葉を言っておけば、大抵すんなり帰ってくれる。
「どうしても今日じゃなきゃダメなんだ」
「はぁ……」
ところがこの客は一筋縄ではいかないようだ。
酒が飲みたいならわざわざ閉店後のジャズバーなんて行かずに他の店に行けばいいのに。
「明日には日本を発つ。せめて最後に一杯だけ飲みたい」
男は食い下がる。
マスターは「知るか」と思わず口に出しそうになるが、なんとかせき止める。
しかし、すでに店は閉めているのだ。
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