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気がついたら、あたしは、自分の部屋のベッドの上だった。
「ええ……」
とするとあたしは夢を見てたのか、と思った時、隣でおばあちゃんの「實奈子ちゃん!!」という大っきな声がした。
「わあ!」
「實奈子ちゃん、ホントによかった! もう、夜に散歩なんて、ほんっとに危ないんだよ? いくら田舎で人がいないっていっても、今日みたいにクマに襲われるよぉ!」
「へ? クマぁ?」
抱き締めてくるおばあちゃんをなだめながら、あたしはふと、自分の手首に包帯が巻かれているのに気づいた。
「親切な男の人がねぇ。實奈子ちゃんがクマに襲われてるとこを助けて、クマに引っかかれた傷を手当てして、うちまで連れてきてくれたんだよぉ」
おばあちゃんはそう言ったけど、「こんな夜中にクマなんて出るか?」というのが素直な感想だった。夜中にいきなり現れた変な男のことを、おばあちゃんは少しも怪しいとは思わなかったのだろうか? 普通、クマじゃなくて、そいつに襲われたんじゃないかと、疑ったりするもんじゃなかろうか。
だけど、なぜかおばあちゃんは、あのおそらくは吸血鬼のことを、悪いやつとは微塵も思っていないらしかった。そしておばあちゃんの直勘は、あたしよりよく当たる。クイズ番組を見ていても、おばあちゃんのほうがあたしより正確に2択問題を正解するくらいである。
「ね、あの人、どこの人かね」
「え? さ、さあ……」
「いい男だったね。ちょっと陰があるけど、礼儀正しくて、男前だったわ。實奈子ちゃん、知ってる人?」
「知らないよ、あんなの」
「そぉ~」
おばあちゃんに背中をぽんぽんされながら、あたしはふと呟いた。
「ねぇ、おばあちゃん」
「なーに、實奈子ちゃん」
「あたしまた、米倉先生のとこに、行ってみようかなって思う」
そう、あたしは、子供の頃から勧められていたセラピーを、ずっとサボっていた。行ったら自分がおかしくなってしまう気がして、とても怖かったのだ。
「いいの? 行ってくれたらばあちゃんも嬉しいけど、しんどかったら無理して行かなくてもいいんだからね。前も大泣きして帰ってきたし……」
「ううん。いつまでも行かなかったら、やっぱり駄目だもん。1回やめちゃったけど、大丈夫かなぁ」
「大丈夫だよ。おばあちゃん、明日先生に電話したげるから」
「うん。ありがとうおばあちゃん。大好き」
「あたしも、實奈子ちゃんが大好きだよ」
夜中だけど、羊羹でも食べようかぁ。
おばあちゃんが部屋を出て行ったあと、あたしは部屋着に着替えようと、ワンピースを脱いだ。すると、ポケットから、折り畳まれたメモ用紙みたいなものがこぼれ落ちた。拾い上げて読んでみると、こんなことが書いてある。
「血は、例の小瓶に半分ほど頂きました。勝手なことをして申しわけない。貴女の体に噛みついたりはしていませんので、体の心配はしなくても大丈夫です。もしよければ、またこんな月の明るい夜にでも、血を恵んで下さると嬉しいです。私はいつでもあの場所におりますので」
「……」
あたしはおばあちゃんに、明日から焼肉弁当の作り方を教えてもらおうと思いながら、その紙をポイとゴミ箱に捨てた。
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