吸血円舞曲

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「つきのー、くにーはー」  日本の田舎なんて、つまんないもんだ。  森だもん、実質。  草と木と虫しかないから、マジ。カエルは田んぼでゲコゲコ大合唱してるけど、人類といえば、とっくに人生のピークを過ぎて、あとは下り坂をゆるやかに歩いていくか、または死神さんのお迎えを待ってるかだけの、そんな足腰弱った愛すべきひとたちがいるだけだ。  あたしはそんな夜の森を、月明かりを浴びて、おめかしして歩くのが好きなのだ。 「なーにもーかもがー、うつくしくー」  通販で買った、お気に入りの赤いワンピース。  赤いストラップ付きパンプス。  期間限定のルージュ。   そして塗りたての、赤いラメ入りの爪。  縮毛矯正をかけたサラサラのロングヘアを風に揺らしながら、月の光のふりそそぐあぜ道を歩いているときだけ、あたしはしあわせなお姫様になった気分になる。細かいとこは脳内修正するからオーケー。雰囲気が大事なんだもん。そう自分に言い聞かせて、砂利道を一歩一歩ゆっくりと歩いてく。 「なみーだのー、でーるほどー……」  その時突然、風が吹いた。  ふわりとワンピースや髪が舞い上がり、良い感じに月が雲から完全に顔を出す。地上にふりそそぐ月光が、いっそう明るさを増し、森は凍りついたように白々と輝いた。あたしは笑って顔を上げて、その光をこれでもかと顔に浴びる。  涼しいなぁ、もう秋かな。  そんなことを思ったときだった。 「君、さっきから、何の歌を歌ってるの?」  背後で、聞いたことのない声がした。
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