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またやってしまったと、気がついた時には既に数分の時間が経過しており、恥ずかしい気持ちになりながら作業を続行する彼女。この姿は、レイトだろうが他の誰であろうとも見せる事など出来ない姿。遅れた分の数分を取り戻すように黙々と掃除を続け、男性寮を後にする。
そこでようやく彼女は朝食を取るためにイザベラのいる食堂へと顔を出す。ルーナはレイトに朝食を作るが、基本的には自分に作るという事はない。そこは少し楽をしたいという気持ちと、いつでも食べられる自分の料理ではなく、イザベラの作ったものを食べたいという気持ちがある。
沢山の団員達が朝食をとっている中で、彼女は一人カウンター席に腰を下ろした。しかし、彼女が来た事で男性の団員達は落ち着きがなくなる。そんな彼らを見ながらイザベラが彼女に紅茶を淹れて差し出した。
「あんたが来てから、本当にここの男共は任務に対してやる気満々だよ。今みたいに落ち着かない奴らも多いけどね」
「ありがとうございます。私は特に何もしてませんが……」
「男共は皆、あんたに少しでも見てほしいのさ。自分達の頑張りをね」
「幹部だとしても、私にはそんな彼らを評価する権限はないんですけどね」
イザベラは彼女の発言に一瞬目を見開いたが、自分がいるだけで生み出される価値を全く理解していない様子の彼女に笑ってしまう。
「あんたはね、いるだけで意味があるのさ。ある意味レイトと一緒さ」
「私がレイト様と?」
「そうさ。まぁ、本人にその自覚無しとなっちまったら、それはそれで良いのかも知れないけどね」
イザベラの言ってる事の意味が分からず、ルーナは首を傾げる。イザベラは笑いながら厨房に戻り、料理の置かれた盆を持って戻ってくると、料理を置いた。
「さ、食べな」
「頂きます」
イザベラの作った料理に舌鼓を打っていると、一人の男性の団員がやって来た。イザベラが先にそれに気が付いて彼女に目配せすると、その目配せに気が付いた彼女は振り返った。
「ルーナさん、僕とお付き合いしてくれませんか!」
「あら、あんた男だね。こんな朝早くから、こんな大勢がいる前で」
告白をされたルーナは、正直心の中ではやめてほしいと思っている。ほぼ毎日といってもいい程にギルド内外で自分に想いを告げる者は沢山いるが、全て断っているのだ。彼にしても、そんな瞬間を見た事も聞いたこともある筈だ。
それでも、彼のような者が後を絶たないというのはどういう事なのだろうか。〝もしかしたら〟〝無理だとは承知でも〟そんな思いでそれを言っているのだろうか。
「ごめんなさい……。あなたの想いには答えられません……」
「そうですよね……ははは……」
毎日ようにこんな告白をされると慣れてくるかと思っていたが、未だに断るというのは正直心が痛くなる。それに、今のように苦笑いのような乾いた笑いを聞くと、自分が悪い事をしたような気持ちにもなる。
「ごめんなさい……」
「い、いえ、気にしないで下さい!」
健気にも笑って去っていく彼に、心が痛みながらもまた食事を再開する。
「あんたが、気にしちゃ駄目だよ」
「え……?」
気持ちが暗くなり始めた時、不意にイザベラがそう言った。
「あの子は、あんたに魅力を感じて告白したんだ。今までの男共もそうさ。あんたが男から見て、魅力が沢山あるから毎日のように想いを告げられるんだ。だから、あんたは自信を持たなきゃいけないよ」
「私の中身を知らないのにですか?」
「中身が外見に出るって聞いた事ないかい?」
「あります」
「あんたは中身もしっかりしてるから、余計にそう言い寄られるんだ。あたしは若い頃は外見はそれなりだったけど、中身がこれだったからね。男は寄ってこなかったけどね!」
豪快に笑うイザベラに自然とルーナも笑みが溢れる。落ち始めていた気持ちが、彼女のおかげで回復しているのを感じる。
「それに、あんたは他に好きな奴がいるだろ? どうしようもない馬鹿がさ」
「い、イザベラさん!!」
勿論、その馬鹿とは一体誰なのかは分かっている。だからこそ余計に焦ってしまう。
「あれは鈍感だからね。あんたも変なのを好きになったもんだ」
「……彼は、私の手が届かない程に高い場所にいますから。追い付こうにも、そのまた更に先を進むような人です」
彼と一緒に行動してそれを最近よく感じるようになっているとルーナは言った。しかし、イザベラはそんな彼女の悩みなど大した事はないと言ったような表情をしている。
「あたしには、そんな風には見えないし。あの子があんたの先を進んでるとも思えないけどね。確実にあんたはあの子の隣を歩きつつあるって見てるよ」
「そんな筈は……」
「あたしは、あの子の使ってる部屋に入った事もないし、寝顔だって見たことない。それはシルヴァも同じさ。父親だってのに、息子の寝顔だって部屋だって見たことないって言うんだからね」
「そうなんですか?」
「そうさ。あんたにしか見せないものが多いよあの子は」
自分より関係が長いイザベラが言ったその言葉は、彼に対して自信を無くし始めていた彼女に、活力を与えるものになったのは言うまでもない。
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