レイトが今までで戦って一番強かった相手とは……。

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レイトが今までで戦って一番強かった相手とは……。

 レイトルバーンの団員の一人が、不意にこんな事を口にした。「レイトさんが、今まで戦った相手で一番強かったのは誰なのか」と。この疑問に、団員達は「それは勿論、このギルドを有名にしたきっかけの魔王だろう」と、皆口を揃えて言った。しかし、本当にそうなのか。実際のところは本人にしか分からない。  それを本人に確認しても良いが、一団員に過ぎない彼らには幹部であるレイトにそれを聞くのは気が引ける。その中で一人の団員が彼と付き合いが長いイザベラに尋ねたら良いのではないかと言った。  彼女ならば、常に食堂で自分達に食事を作り続けているし、話しやすい。そうして、それを聞く事になったのがレイトルバーンに所属して約半年になるカミラ・マグワイア、二十二歳の青年だった。 「レイトの戦った相手で一番強かった相手?」 「はい、気になってしまって……。魔王だと皆思っているんですが、実際はどうなんだろうって」  カミラは、現在食堂にてイザベラの料理を口にしながらその質問を彼女に投げかけた。しばらく考える素振りを見せたイザベラだったが、何かを思いついたように口を開く。 「ルーナに聞いたらどうだい? あたしは、あの子が戦った相手の事は良く分からないな。あたしも多分、魔王なんじゃないかって思ってたしねえ……」 「ルーナさんですか……」 「何だい? ルーナだと聞きづらいかい?」 「え!? そんな事はありませんが……」  イザベラとしては、レイトと行動を共にしているルーナが一番知っていると思って出した案だったが、結局のところはルーナもこのレイトルバーンで幹部である。それに、彼女はレイトルバーンに入ってたったの二年で幹部にまでなったエリートである。とてもじゃないが、一団員の自分が話しかけるのは気が引けてしまう。 「あの子もレイトもそうだけど、幹部連中はあんたが思ってるような奴らじゃないさ。普通に聞けば普通に返してくれるよ」 ーーそして今、カミラは大広間で談笑しているレイト達を見かけて、先程イザベラに言われた事を思い出していた。 (普通に話しかければ良いんだ……普通に……) 「何やってんだ、あいつ」 「何か私達に話しかけたいみたいですね」  レイト達はカミラに気が付いていた。一人で表情をどんどん変えていれば、気が付かない筈がない。レイトは立ち上がり、そんな彼のもとへと歩いて行く。 「おい、お前、一人で何してんだ?」 「え!? れ、レイトさん!?」  目の前にいる世界最強の男が自分に話しかけている。団員になって、彼の伝説を聞いて憧れていた彼が自分に話しかけている。こんな事があっても良いのだろうか。 「お前、名前は?」 「か、カミラ・マグワイアです!! まだ、所属して半年の者でふ!!」  舞い上がり過ぎて噛んでしまうカミラ。それに笑ってしまうレイトは、彼の表情を眺める。すると、後からやってきたルーナが口を開いた。 「駄目ですよ。彼に圧力をかけるような事を言っては」 「言ってねえよ! な?カミラ」  自分の名前を言ってくれるという、なんとも形容し難いこの気持ちの高鳴り。彼は自分よりも年下であるにも関わらず、何というカリスマ性を秘めているのか。目の前に立つ少年は、自分よりも遥かに雲の上の存在である事を認識させられる。  そして、ルーナ。彼女はなんと綺麗な女性なのか。今まで、こんな綺麗な女性には会った事はあっただろうか。綺麗な金色の髪を結い、そして長い睫毛、綺麗なエメラルド色の瞳、男性全てを魅了するであろう身体。完璧の一言だった。 「カミラさん、何かレイト様に言いたい事があったのではないですか?」  彼女から不意に放たれた言葉で、ようやく何処かに行っていた意識が戻る。そう、自分は彼に一団員代表として聞きたい事があったのだ。カミラは意を決してその質問をする為に口を開く。 「質問があります! レイトさんが今まで戦った中で一番強かったのは誰ですか!」 「一番強かった相手か」  これに関しては、ルーナも知らなかったし聞こうとも思わないかった。彼女も他の者達同様に彼が一番強かったと思うのは、魔王だと思っているからだ。 「ま、魔王ですか……?」 「あー、まあ。あれもそれなりに強かったな」  それなり!? あの世界災厄が!? カミラは驚きを隠せない。あの魔王ですらが、レイトにとってはそれなりの相手にしかならないのか。どこまで彼は強いのか、そう思わざるを得ない。 「あ、いるわ。一人めちゃくちゃ強かった奴」 「「「「「「「!?」」」」」」」  大広間にいた全員が、そのレイトの一言に一気に反応して彼を見た。 「そんな人がいたんですか……?」  ルーナですら、そんな事を聞いた事はない。多分此処にいる幹部連中もそれどころかレイトルバーンにいる全員が、そんな事聞いたことすらない。 「だ、誰なんですかそれは……?」 「名前は知らねえけど、女だった」 「「「「「「「女!?」」」」」」」  彼を最も苦戦させたのは女性だと、そんな化け物のような者がこの世に存在するのか。皆そう思っている。 「そんなに強かったのですか……?」 「強かったよ。本気でやっても、多分勝てなかったと思う。でも、負ける事も無かったとも思うな。実際引き分けたし」 「どんな女性だったか、覚えてますか?」  ルーナはそのレイトと同等の力を持つ女性が気になって仕方ないという表情で聞く。 「氷魔法を使う奴だった。あと、髪は青かった。それに、魔武器?とかいう魔法で武器を生成して使ってたな。あと俺から見ても綺麗な女だった気がする」 「綺麗な女性だったんですね……」  その瞬間、ルーナの表情が変わり苛立ちを隠せないといったものへと変わる。それを見たレイトは地雷を踏んだと、逃げるように大広間を後にした。 「待ってくださいレイト様! ちょっとお話がありますから!」  ルーナは彼を追いかけるように同じく大広間を後にする。その女性とは一体誰だったのか、分からないままレイトルバーンの一日は過ぎていった。
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