たがいの神頼み

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あぁ神様、どうか願いを叶えてください。 私の願いはただひとつ―――― 夢の中でそう願った気がした。いや、寝てはいなかったのだろうか。このところ、自分が寝ているのか起きているのかも曖昧なので、そこは正確にはわからない。 だが願ったのは確かだ。それは今だけでなく、あの時からずっと願っていることだ。 だから私の前に人が浮いて現れた時には、いよいよ私の頭が夢と現実を混同し始めたのかと疑った。その次にやっと、私の祈りが通じたのだろうかと思ったのだ。 浮いた人(仮に、神とする)は私へ聞いた。 「男よ、叶えたい願いがあるのか。力になれるかどうかはわからないが、言ってみるがいい」 「神様。私は、愛しの妻を蘇らせてほしい。私と妻は、不運な事故に遭い共に死んだ。死んだ筈だったのだ。だが何故か、私だけが生きている。生きてしまっている」 その時の事は今でも明確に覚えている。突然鳴り響いてきたクラクションに、眩しいライト。信号待ちの自分達の車に、大型のトラックが路面の影響で曲がりきれずに突っ込んできたのだ。 消し飛ぶほどの激しい衝撃と、ホワイトアウト。程なくして身体の至るところに走る激痛。それに堪えながら妻の方を見ると、同様に傷だらけの妻と目があったのだ。それからゆっくり、ゆっくりと意識が遠くなり、救急車のサイレンが聞こえるよりも早く、音はなくなっていった。 「神様。私はいい。私はあるべき通りに死んで構わない。だからどうか、妻だけは蘇らせてくれ。彼女はまだ死ぬべきではない」 神は私の言葉を聞き、少し困ったような顔をした。神を困らせるようなことなのだろうか。 しかし私にとっては、神を困らせてでも叶えてほしい大切な願いだ。 「神様」 「あぁ、わかった……つくづくだな」 神は呆れた様子で私をまじまじと見た。 神は特に呪文を唱えたり、何か動作をする様子もなく落ち着いたまま話した。 「これより妻は蘇る。そして、お前は……元あるべく、死ぬ」 「……ありがとうございます、ありがとうございます!」 私は嬉しかった。私は素直に喜んだ。 私だけが生き残っていても仕方がない。妻には、あのような最期は似合わない。 目が冴えていくような感覚がする一方で、眠くなるように意識が薄れていく。これはまるで、あの時に似ている。 そうだ、死とはこうして訪れるのだった。
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