わずか五年、43,5kbの世界の中で何が起きたか。

2/5
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
え?名前の読み方ですか?俺がさえもんざぶろうみどりで相手があがりまえじょうむぎ、です。難読名字一位と二位ですね。え?運命?いやいや、それがそうでもないという話を今からしようというんですよ、お客さん。 掃いて捨てるほどいるホモサピエンスの一頭だった俺だが、どうあがいても他人と一線を画している部分があるにはあった。 自分でも病気か、頭逝ってしまったのだと思っていたのだが、小学校卒業したあたりから、 空気に恋をした。 まぁ、あまり正確ではないのだろうけど、もうそう言うしかないってくらいに、具体的な表現だと思う。 ある日突然、ある女の子を好きになった。いや、その時点ではまだそいつ……いや、それが女かどうかすら怪しかったので、よく分からない何かを好きになってしまったと言った方が正確なのかもしれない。 きっかけもなにもない。どこでそんな感情がうまれたのかもわからない。とにかく、『東前門むぎ』が、急に好きになった。それも、胸が張り裂けそうになるくらい。道端で突然叫びだしたくなるくらい。 ………まぁ、年頃の男子といえばそう言えなくもない時期ではあったし、誰かを好きになるというのは自然といえば自然だっただろう。周りにも誰が付き合っただとか誰が誰を好きだとか、そういう話は相応にしてあったのだ。自分の身にその手の話がふりかかってきたとしても特段不思議に思うことはない。 ただ。 自分で思うくらい奇怪なことには、だ。 心が叫びたがるほどに、世界の中心でアイを叫びたくなるほどに好きになってしまった『東前門むぎ』のことを、 俺は名前と、その住所以外の一切を知らなかったのだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!