わずか五年、43,5kbの世界の中で何が起きたか。

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そうして、そんな不毛としか言い様のない日々が過ぎ去って三年が経った。 あんまり頭のよくなかった俺は地元の私立高校、今通っているトコロに進学……頭のよくなかった理由は察してくれ、なに、小学校までは学年で一二を争う成績だったんだ。畜生が。 中学校を卒業して、入学式の前日までラブレターは書き続けた。もっとも、その頃には書くこともなくなって……仕方ないよね、だって会って話したことも無い相手だもの。共通の話題とかそういうの皆無でどうやって文章かけっていうんだよ、マジで。 で。前述の好きラッシュとか自分の感情をそのままクレヨンで描き殴った抽象画とかを送りつけ………ホラーだよな、怖いよな、思い返して俺が一番ビビってる。まぁ、そういうのを送っていたわけだ。 結局何通送ったんだか忘れたんだが、特筆すべきはその間ただの一度もその恋心は薄れることも消えることもなかったわけだ。つまり心のこもっていないそれはただの一通もない。まだ15年という短い人生ではあるのだけど、 ここまで真剣に、切実な感情を抱いたのもまた初めてであって、確かなことではあったと思う。 さて、実体がない空気みたいな存在にも関わらず、それほどまでに恋い焦がれて、想い続けた相手である『東前門むぎ』が、入学式の当日、入学許可証を手渡す校門の前で突如颯爽と目の前に現れたのだから、 まぁーその当時の俺は運命ってものを信じずにはいられなかった。 そりゃそうだろう。感覚的にはほぼ、ゲームの世界から二次キャラが飛び出して来たという状況に近い。しかも、めちゃくちゃ好きだったキャラクターがだ。 無論、それよりハードルは高い。二次キャラはゲームのなかでは確かに人間だが、『東前門むぎ』はその瞬間まで一次元、点ですらなかった。存在するのかしないのかわからないものを何次元と言い表すのかはわからないが、とにかく『無かったもの』が突然色をつけたのである。形を持ったのである。 こんなもん、運命以外の何者でもない。いや、もはや運命以上の何かかもしれない。 当時の俺は当然の如くそう思った。みた瞬間そいつが『東門前むぎ』だとわかったのも、その感覚を助けた。だってそりゃそうだろう、一度も会ったことの無い、声も聞いたことの無い人間を、瞬間にそいつだと判別できたんだから。 ファンタジーか何かの一幕にいるような気分にもなるさ、赤い糸で繋がっていて、なんてくっさいくっさい展開もそんなもん信じてしまうさ。 しかも、しかも。これがめちゃくちゃな美人だったんだ。お約束のように。いや、約束なんだろうなもう。そうでなきゃダメだってことを世界が知ってるみたいに、そいつは超絶な美人だったんだ。 腰までかかった長い黒髪はせおはやみ、大きくて切れ長の勝ち気な瞳は岩にせかるる瀧川の、口許に浮かべた薄い唇の微笑と一切の無駄を削ぎ落としたかのような長身ベストプロポーションは割れても末に逢わんとぞ思う!崇徳院! あんまり驚いたもんで、しかもその美貌に圧倒されたもんで、その場で立ち尽くすしかなかった俺に『東前門むぎ』はその微笑を笑顔に変えてこう言ったんだ。 「ラブレターの人ですね」
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