月明かりの下で吸血鬼が日焼けをしていた

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 ふんわりと落ちてくる月明かりの下、私の目の前に変態の女が居た。  金髪碧眼の二十歳くらいのそれはそれはナイスバディな美女だ。  もう間違いないナイスバディ。着痩せとか着太りとか介入の余地が無いレベル。  だって裸なんですもの。「ら」なんですもの。何なら全てをさらけ出した全裸なんですもの。  こう足を組んで夜空に向かってビーチでしか見たことの無いリラックスチェアに座って居たんですもの。  本日は十五夜のお月さん。私はお月見帰りの大学二年生。今は深夜一時の終電帰り。右手には開けなかった日本酒と肴の入ったビニール袋。そしてここは私が暮らすアパート近くの公園。  アルコールでふわふわした頭に浮かんだ文字は、まあ、『通報』の二文字ですよ。 「ヒャクトウバンって何番だったっけ?」 「待ってくれ。頼むから事情を聞いてくれ。ワタシは吸血鬼なんだ」  おっと、想像以上にヤバい人だったわ。  アレね、見た目にスペックの全てを振ってしまったのね。可哀想な人。  頭はハロウィンでヒャッハーするヤーシブのヤングパリピーポーよりもヤバいのね。 「いち、いち、きゅう、っと」 「待って! 聞いて!」 「分かってるわ、これが現代社会の生んだ心の闇なのね。大丈夫、あなたはきっと帰ってこれるわ」 「ほら、見てこの翼! 蝙蝠みたいなヤツ!! めっちゃ動くよ!? このナマモノ感は本物だよ!? さあ、今すぐスマフォを置くんだ! ハリー!」  バサァ! バサバサァ!  その言葉の通り、背中を向けた変態の肩甲骨の辺りから割りとデカメの蝙蝠の翼がブワッサァっと生えた。 「マジか!?」  私は眼ん玉向いて驚いた。絵文字を使うなら  ( ̄□ ̄;)!!?  ( ̄□ ̄;)!!?  ( ̄□ ̄;)!!?  ( ̄□ ̄;)!!?  ( ̄□ ̄;)!!?  ぐらい。 (裸)(裸)(裸) 「日焼けコンテストぉ? 何ユーモラスな事言ってんのよ」 「そうなんです。来週コンテストがあるんです。だから、だからどうか通報は勘弁してください」  公園のブランコに座る私とその目の前で土下座する全裸金髪碧眼美女(翼は収納済み)。  ……知り合いに見られたらキャンパスライフが死ぬわね。  この変態、改め、金髪吸血鬼曰く来週吸血鬼達が毎年開催してる日焼けコンテストなる催しが行われるらしい。  ルールは大体人間バージョンと同じ。唯一違うのは夜中に行われる事だけらしい。 「まあ、通報はしないであげるよ」 「本当でござりまするか!?」 「キャラ戻せ、話し難いから」 「分かった。それじゃあ、すまないが日焼けの作業に戻らせてもらう」  吸血鬼はスッと滑らかに立ち上がり、先程のリラックスチェアに戻った。  今度はうつ伏せか。良い尻してやがる。  私の眠気は完全に晴れた。これで寝れる奴が居たら連れてきて欲しい。  キイキイ。ブランコを小刻みに揺らしながら、私はビニール袋から紙コップと日本酒それにコンビニで買ったツマミ盛り合わせセットを取り出す。  コップにトクトクと日本酒を注ぐ私へ吸血鬼はフフンと鼻を鳴らした。 「君、見てくのかい? ワタシのプロポーションに見惚れたかな?」 「公園に全裸のパンダ居たらとりあえず観るでしょ」 「パンダ!? この千年を生きる高貴なる血族のワタシがパンダ!? 発言の撤回を要求するよ!」 「そういうカッコいい台詞はプリけつを隠してから言いな」  グビッ。日本酒を煽りながら私は「ハッ」と笑った。 (裸)(裸)(裸)  しばらくして。  無言で鑑賞していた私は質問を始めた。 「何で今焼いてんの? 夜だよ?」 「いや、ワタシ吸血鬼だからね? 昼間に出ると最悪死ぬからね?」 「ていうか、どうやって日焼けすんの? 暗いし無理じゃない?」 「月光で焼くのさ。月の光は結局太陽光の反射光だからね。これくらいならワタシ達にも心地が良い。君達で言う晴天の太陽がワタシ達で言う真ん丸お月様なのだよ」 「へー」  眼を丸くした。夜に生き、夜を駆ける、闇夜の世界の代表者たる吸血鬼達は月をバックにポカポカ「あたたか~い」と思っていたらしい。 「さて、次はもう一度仰向けに」  吸血鬼は機嫌良さそうに体を回し、胸を空へと向けた。くそ、美しいロケットカーブだなおい。 「~~♪」  軽い鼻歌が吸血鬼から聞こえてくる。 「まさか裸視られてテンション上がってんの? ひくわー」 「違う違う人を変態みたいに言わないでくれ。久しぶりに人間と吸血鬼として会話できて楽しいんだよ」  え? この人すごい。普通全裸でこんな可愛い顔出来る? 絶対変態だわ。 「まさかここに人が来るとは思わなかったから。それもこんな時間に」  この公園には遊具がブランコ二つしかなく。日当たり以外に立地も悪い。  パクッ、グビッ。 「私はたま~に来るけど」 「ワタシもだよ。君は昼間に?」 「あんたは夜に?」  互いの質問に頷く。どうやらたった二名の利用者だったみたい。  パクッ、パクッ、グビッ、グビッ。  チー鱈と柿ピーうめえ。 「あんたも飲む?」 「君の血を?」 「しゃらくさいわ。酒よ酒」 「残念だけど今は遠慮しておくよ。好きだけど酒には弱いんだ」 「おっけー」 (裸)(裸)(裸) 「そもそも何で日焼けコンテスト?」 「何でって?」 「そんなに綺麗な白い肌してんのに。ノリ?」 「ぶっちゃけるとほぼノリだね」 「マジかよ」  ポリポリ、グビグビ。  Qちゃんうめえ。 「ワタシ達ってまあまあ長生き、というかほぼ不死なんだけど、種族として交流が盛に成ったのはつい最近なんだよね」 「何で?」 「インターネットのおかげさ。いや~、これは便利だね! 外に出なくても生活できるんだもの。Facebook活用したら、もう同胞が面白いように見つかるのなんの」 「デジタル化の恩恵が人間以上にあったのね」 「そうそう、Amazonの本社には足を向けて寝ない事が種族の掟で決まったくらいさ」  吸血鬼はナムナムとジェフ・ベソスを軽く拝んだ。コイツはもう駄目かもしれない。 「で、まあ、折角種族として交流が持てるように成ったから近年爆発的にイベントが増えてね。クリスマスパーティー、盆に正月、バレンタインデイ、花見、楽しくてしょうがないのさ。で、その中の一つが日焼けコンテスト。これがバカウケなんだよ」 「日焼けコンテストの何が楽しいん? いや、私もエロいな~、とか思いながら見てるけどさ」 「だってワタシ達吸血鬼が肌を焼くんだよ? 面白くってしょうがないじゃないか!」  本当に楽しそうに吸血鬼は笑い、弾みで巨乳が揺れた。チクショウ。 「最近の吸血鬼はユーモアあるのね」 「それは君達人間のおかげだよ」  ククッ。私達は笑い合った。 (裸)(裸)(裸)  私達は色々な事を話した。  吸血鬼の住みかは薄暗く日焼けが出来ないこと。  私の大学生活。  最強のおつまみについて。  芋焼酎派か米焼酎派か。  正直半分も覚えてない。  だらだらと無駄話を肴にグビグビと。  瞬く間に時は過ぎ、気付いたら東の空が白んできていた。  月は沈もうとし、人と吸血鬼の時間が混ざり合う。  グビッ。  ちょうど酒も肴も尽きた。 「それじゃあそろそろ帰るわ」 「ワタシも帰るよ。これ以上居ると灰に成ってしまうからね」  ブワァ。蝙蝠の翼が吸血鬼の体を包み、一瞬にして黒のワンピースへと早変わり。  小さな公園の出口まで歩き、私は左に吸血鬼は右に帰るようだった。 「またね」 「またね」  再会の約束はしないで私達は別れた。  何となくだけれどまたすぐに会える予感がした。 (裸)(裸)(裸)  三日後 「やぁ」 「感慨~」  (  ̄ー ̄)ノ  くらいの気軽さで、吸血鬼は私の前に現れた。  場所は前と同じ公園。今度は吸血鬼がブランコに座っている。 「ワタシの肌はどうなってる? 良い感じに焼けてるかい?」 「自分で分かるでしょ」  見事な小麦色の肌に私は苦笑した。  吸血鬼はフフッと笑い、 「知らなかったのかい? 吸血鬼は鏡に映らないのさ。どうだいワタシは綺麗に焼けてるかな?」  少し考えて私は笑いながら言った。 「お酒を飲んだら教えてあげるわ」
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