プロローグ:十年前の約束

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 僕は強くなりたかった。  物心つく頃から、僕は兄さんの背だけを追いかけて生きてきた。それは未来永劫変わる事はないと、心の底から信じていた。  あの``約束``をするまでは―――。 「もう無理だよ母さん……」 「久三男(くみお)ォ!! お前男だろォ!! 腹筋ただの五十回しかできてねぇじゃねぇかァ!! 話にならんぞそんなんじゃァ!!」 「そんなこと言ったって……これ以上お腹持ち上がんないもん……」 「たく俺がテメェんときゃあ五百回は軽くこなしてたぞォ!!」 「それは母さんがただ怪物なだけじゃないかなぁ!! 一応、僕まだ五歳だからね!?」  僕の母さん、流川澄会(るせんすみえ)の前で、なめくじみたいに床にへばりついて動こうとしない僕、流川久三男(るせんくみお)は今日も終わりの見えないロードワークに苦しめられていた。  畳の匂いが心地良い。母さんの怒鳴り声がほんの少し小さく聞こえるくらいに、極限まで痛みつけられた僕の身体が、心なしか癒されていくのを感じる。  これを、大地の力、なんて言うんだろうか。 「御託はいいィ!! それにお前、最近魔生物狩りのノルマ、全然達してねぇぞォ!! 昨日なんて一体すら狩れてねぇじゃねぇかどういうことだァ!!」  母さんの怒鳴り声が、残酷にも僕を現実に引き戻す。現実に引き戻されたという絶望と、母さんの恫喝のダブルパンチが、僕のガラスメンタルを容易く砕いた。
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