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穴場スポット
「魔物の住処」と恐れられる海域がとある海の真ん中に存在した。
何百人もの漁師たちがこの海域で行方知らずとなっており現地の人々はこの現象を「神隠し」と呼び、この海域を酷く恐れていた。
しかし同時にこの海域は世にも珍しい魚や、調理すると絶品料理へと生まれ変わる魚達が沢山生息している事でも有名である。
だから毎年旬の時期になると、噂を信じない怖いもの知らずの漁師たちがこぞって魚を釣りにこの穴場スポットへとやってくるのである。
そしてここにもその怖いもの知らずに分類される二人の夫婦がいた。
この海域にのみ生息する希少な魚を捕獲し、見世物小屋に売り飛ばし、大金を得る為に遠くからはるばるとやってきたのであった。
夫婦はウェットスーツに着替えると小舟を漕ぎ、魔の海域へと向かった。
「何百人もの漁師たちが神隠しにあったと言われているけれど、本当に大丈夫かしら……」
妻が船を漕ぎながらそう不安そうに夫に向かって呟いた。
「お前はまだそんな噂を信じているのか?
この現代において「神隠し」などという非科学的な現象など起こるわけがないだろう。
そんなくだらない事言ってないで、船を漕ぐのに集中しろ」
夫は徹底した合理主義者であった為、そんな噂など毛ほどにも信じていないようだった。
気弱な事を言い出した妻を不快な顔で叱る。
「そ、そうよね。
今更こんな事言ってごめんなさい」
慌てて妻は夫へ謝罪した。
そんな二人と会話共に船は着実に海域へと近づいていた。
そして船を漕ぎだしてかなりの時間が経ったとき、沢山の魚が悠々と泳ぎ回る魚の楽園のような場所にとうとうたどり着いた。
「どうやらここが噂の海域のようだな。
よし、到着だ。
早速釣りを始めるぞ」
夫の言葉が合図となり、二人は釣りを開始した。
釣りを始めてみると、やはり噂は本当だったと知る。
魚が恐ろしいほどよく釣れるのだ。
先程まで噂に怯えていた妻も、そんな事はとうに忘れて純粋に釣りを楽しんでいた。
二人の間に幸せな時間が過ぎていく。
そして持参していた魚を入れておくケースがそろそろ一杯になるだろうという頃。
その光は突然彼等の頭上にやってきた。
彼等は水面を反射する光に気づき、慌てて頭上を見上げる。
その光の正体は大きな円盤型の飛行物体であった。
その円盤から放たれた光が彼等夫婦をまるでスポットライトのように明るく照らしている。
二人の夫婦は信じられないと言った顔でその円盤を見つめていたが、そのうち自分達の身体が宙に浮き始めている事に気付いた。
慌てて二人は手足を動かし、その謎の力に対抗しようと試みるも、まるで意味がないようだった。
そのまま光の中にいる二人は水面からどんどん離れ、円盤に引き寄せられていった。
その頃、円盤の中では。
捕まえた二人の地球人が宇宙船に収容されていく様を映像を通して眺めながら談笑していた。
「おい、また釣れたぞ。しかも2匹同時にだぜ?」
「おお!こいつはラッキーだな!
今日は何か良いことがありそうだぜ」
「しっかし、
それにしてもこの漁場ではよく釣れるよな。
本当にこれで何匹目だ?」
「大体300匹目だ。
なんていったってここは銀河内でも情報通なヤツしか知らないよく釣れる穴場スポットだぜ?
そりゃよく釣れるさ」
「ああ、今夜もご馳走だな。
しかし大丈夫なのか相棒?」
「うん?何がだ?」
「この穴場スポットには変な噂があるらしいじゃねえか。なんか、「巨大エイリアンにさらわれる」みたいな事を聞いたことがあるぜ?」
「下らねえ。
巨大エイリアンなんているわけないだろう?
そんな非科学的な事言ってないで、次の獲物が来るまで集中しろよ」
そんな他愛もない会話が続いていたその時だった。
二人を乗せた円盤型の宇宙船が大きく揺れたのだ。
「まさか……」
二人の頭の中には先程まで話していた悪い予感がよぎっていた。
そしてその予感は窓の外から聞こえた大きな声で確信に変わる。
「やはりここはよく獲物が捕れる穴場スポットだな。こんな立派な円盤に乗っているんだ。
さぞかし肥えた身体をしているんだろう。
巨大エイリアンである私の空腹もこれで収まるといいんだがな……」
その声と共にそこらの惑星程に巨大な手が、4人を乗せた円盤を包み込むと…………。
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