あの子は、いなくなってないんだよ

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   僕は、リビングで野球番組を見ていた。突如、娘の莉央(りお)が起きてきた。 「莉央(りお)おはよう。今日は学校休みなのか」 「おはようございます。うん、お父さん、日曜日だよ」  しまった。日曜の朝だった。チャンネル権は、子どもに奪われる曜日だ。野球番組をテレビで見ているが、横目で莉央(りお)の様子を(うかが)う。  日曜も出勤の嫁さんが用意した朝ごはんは、トーストだ。テーブルの上にプラスチック製のふたをかけてある。  莉央(りお)が足をぶらつかせながら、ふたを取っていた。トーストをそのまま食べようとするので、僕はソファーから腰を上げた。 「莉央(りお)、もう小学校1年生だよ。ご飯を食べる前には、ちゃんと手洗いしましょう」 「うん。うっかりしてた、お父さん分かった!」  洗面台に行く莉央(りお)の、小さな後ろ姿を視線で追いかける。ジャバジャバ石鹸(せっけん)で手洗いをしていた。  そのあいだに、トーストを電子レンジで僕は、温めてあげた。自分の席に戻った が、目を丸くしていた。 「お父さん、電子レンジで温めてくれたんだ。ありがとう」 「どういたいしまして」 「いただきます」  手を合わせてから、莉央(りお)はトーストを口に運んでいる。  僕もソファーに戻り、野球番組を見ていた。三州(さんしゅう)カリスマズのファンだ。試合のダイジェストが面白い。画面はスタジオに切り替わり、尊敬する中堂(なかどう)監督の笑顔がアップになる。  論理的で思考をされ、しかも紳士だ。CMに入る前に、番組名が出た。“9チャンネル。三州(さんしゅう)テレビ。三州(さんしゅう)カリスマズ・一週間ダイジェスト”だ。
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