冒険の朝はファンファーレとともに

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冒険の朝はファンファーレとともに

 ――パッパラー パッパッラー パッ パァア――ン 「うわぁっ な、なんだ? なんの音だ???」  朝、8時になると、町中にけたたましいファンファーレが鳴り響いた。 「ん、んん~~~アレだろ? はじまりのファンファーレだろ? いざゆかん♪ 冒険者達よ~♪ 新しい冒険の始まりだぁ~~~ってヤツ」 「って、え? ディアーナ! なんでココで寝てんだよ!」  気がつけば、ヒカルのベッドの中にディアーナが寝ていた。いつのまに着替えたのか、着ていた可愛らしいパジャマもはだけ、ヘソが出ている。 「ん~いいじゃないか。パートナーなんだからさぁ。これでドーテー卒業だな」 「え? えええ――っ! 言ってることがわからんぞ」 「ごちゃごちゃウルサイなあ~なんかさ、頭が痛いんだよ」 「そ、それは飲みすぎたんだろーが! 二日酔いってやつだろ?」  ――ドカンッ 「まいどー、おはよーっす。朝飯どうしま……あ、お取り込み中だった? かな?」  乱暴に入ってきたエマだったが、ふたりが同じベッドに居ることを見て、慌てて帰ろうとした。   「違う違う違う違うしー! エマ! そういうんじゃないから。なんか用事があるなら言ってくれよ」 「本当かい? べ、別に良いんだよ? ふたりがナニをしようが。あ、あんなことや、こんなことを、あ、朝っぱらからいたそうが、いたしまくろうが……ボ、ボクは全然気にならないし」 「いや、思いっきり顔を赤くしながら言われても……」 「違うし! ま、まあいいさ。朝飯! どーすんの? 食べてくんでしょ?」 「あ、ああ……」  ディアーナに声をかけたが、頭痛と吐き気で、要らない、とのことだったので、ヒカルだけが食堂に降りてきた。『盗賊の宿屋』は盗賊街と呼ばれる、どちらかと言えば寂れた下町のような地域にあって、一階が食堂で、二階が宿屋だった。 「おお~うまい! うまいよ!」 「そうだろ? ウチの盗賊メシは最高さ」  朝食はフランスパンとコッペパンの中間のようなパンと、ごろっと具材が見えるシチュウ、そして大きめの骨付き肉だった。 「こ、この肉もうまいね~なんの肉?」 「ん~ハナモグラ……モドキの丸焼きだね」 「ハナモグラ?」 「そそ。花の蜜のように甘い肉の味ってんで珍味なんだぜ」 「へえ~でも……モドキって言わなかった?」 「ま、まあさハナモグラはさ貴重だからね」 「そすっとこれは……本当はなんの肉なんだ?」 「探究心は冒険者にとって必要だけれど、時には知らないほうが良いこともあるんだぜ?」 「……お、おう……そうだな。聞かないでおこうかなあ~」    そう言いながらもヒカルは肉をひっくり返したり、つついたりしていた。   「で? 飲み物はどうする? ワインにするかい」 「ああ~いや、果実酒アルコール抜きみたいなので」 「ってジュースかい! 子供か?」 「わ、悪かったなあ~そ、それより、朝はこの町騒がしいな」  朝のファンファーレが鳴ると、一斉に店や家のドアが開き、人が町に溢れ出していた。 「あったりまえだろ。冒険者たちの競争の始まりだ」 「競争?」 「キミはホントになにも知らないんだな。ダンジョンの開門は9時だ。一晩明けて再生されたお宝や、モンスターを狙うには早いほうがいい。そして近道や、通れる人数が決まっているルートもあるからさ。とにかく早いもん勝ちなんだよ」  アデステラという町は、町自体が、永久迷宮(エターナルラビリンス)を中心にできていた。ダンジョンを目指す冒険者が集まり、冒険者を泊める宿屋や食事処、道具屋、防具屋、武器屋、薬屋などができて発展しているのだ。だから、冒険が始まる朝は毎日お祭り騒ぎのようににぎやかだった。 「キミもそんなノソノソしてるとヤバいぜ?」 「な、なるほど……」  ヒカルにもなんとなくアデステラとダンジョンの関係もわかり、あんまりのんびりとしてはいられないことが分かった。だがしかし、まあディアーナの話しだと、地下30階の階層に直接行けるらしいから、俺はもう少しゆっくりしていいかな? とヒカルは思っていた。 「あ、そうか。キミ、装備もなにもないんじゃないかい?」 「あ、ああ……そういえば、そうだな。昨日からこの寝間着がわりのスウェットだけだった」 「そうかそうか! それはツイてるぜ。ウチは防具屋も武器屋もやってるから見繕ってあげるよ。なに? お金がないって? そんなの後払いでオーケーさ」  食事が終わると、エマはすぐさま隣の店の方にヒカルを連れ込んだ。とんだ商売人だ。 「ってさ、それ盗品じゃないの? ここ『盗賊の装備屋』って書いてあるんだけど」 「だから?」 「いや、いいのかなあ~って」 「あったり前じゃないか。盗られる方がわるいんだ。ここはそういう世界さ」 「な、なるほど……」 「とりあえず、装備品、なんか希望ある?」 「そうだなあ~あんまり贅沢は言えないケド……そうだ、なんかおどろおどろしいハッタリが効くのがいいかなあ。で、防御力が超高い防具、とくに……火に強いといいな。で、軽くて、動きやすいの。で、激安のやつ」 「そんなのあるワケないだろ!」 「だ、だよね~ あははは」 「まあ、希望は分かったよ。鎧系は高いから、そこはテキトーな革当てにして、防御力は盾でカバーしよう。耐火系の盾があったはずだ。あとは……ハッタリだっけ? うーん、祭り用の変装ローブで我慢だな。フードを頭からかぶれば顔は隠れて目だけが赤く光るっていう……まあオモチャだけどね」 「へえー、イイじゃん。亡霊っぽくて」  それはまるでハロウィンの仮想衣装のようなモノだったが、素材としては布製だし、かなり本格的なローブに見えた。 「で? 武器はどーする?」 「ぶ、武器かあ……手軽で簡単で超破壊力のあるやつ……は、ないよね?」 「あるよ」 「え? で、でも高いんでしょ?」 「いや。タダでいいけど? じゃなくて、サービスしておくよ!」 「……なんか裏があるやつだよね。それって」 「まーね。ちょっとした呪いがね」 「ってダメじゃん!」 「まあ、ものは考えようだよ。呪いっても即死するとかじゃないし」 「ど、どんな呪いなんだよ」 「ちょっと待ってくれ。説明書、説明書は~っと」 「せ、説明書があるのか?」 「ああ、その武器は持ち込みでね、持ってるとヤバイってんで置いてったんだ」 「ヤバイって……」 「あったあった。コレなら大丈夫じゃないかな?」  手書きの説明書によると――  剣の名前は死魂剣(デスペラード)。高確率で敵を死に至らしめるが、持ち主の魂を消費する。そして敵を倒した回数が13回に至ると持ち主が死ぬ。   「ほら、ってことは12回で手放せばいいってことだよ」 「な、なるほど……いいかもしれないな」  そもそも自分はあと28回は死ねる。単純計算すれば、13×28=364回はOK。厳密に言えば364回使用後も12回までは使えるってことだよな? と、計算。 「無敵じゃないか!」  そう思ったヒカルは、装備一式と死魂剣(デスペラード)を受け取ると意気揚々と部屋に戻り、ディアーナを叩き起こしてダンジョンへと向かっていった。    ――そのちょっと後のこと 「おいエマ〜ココにあった呪いのローブどうした?」  この宿屋の主にして、エマの属する盗賊団のボスの声がした。   「え? あれ仮想用のオモチャじゃなかったの?」 「ちげーよ! 呪いの剣と一緒に持ちこまれたヤツじゃねーか」 「あ、ああーそーだった、そーだった。も、燃やしたよ。物騒だからさ」 ”ヤベー後で謝って返してもらおうっと”  と、その瞬間は、そう思うエマだったが。 「ち、ちなみにどんな呪いなんだっけ?」 「一度着たら最後、死ぬまで取り憑かれるらしいぜ」 ”よし! 黙っておこう”  そう心に決めたエマだった。
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