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働かざる者飲むべからず
――パッパラー パッパッラー パッ パァア――ン
「あのう……」
朝のファンファーレが鳴り響く中、エマがそっとドアを開けた。三人がひとつのベッドであんなことやこんなことをしてやしないかと気が気じゃなかったのだ。
「ん……エマか?」
しかし、今日は死んだように手を組みながら寝ているエレナにディアーナが絡みついて寝ているだけだった。ちなみに、エレナは目の絵が描いてある目隠しをしていて……少しおどろおどろしい。
「これはこれで……どーなんだ? って、ヒカル。ちょっといーい?」
「な、なんだよ。あらたまって」
「えとねー、支払い。そろそろしてくんないとボスに叱られちゃうんで、よろしくね!」
「あ、ああ……ち、ちなみに……おいくらほどなんだ?」
「えっとー、宿泊が2日で1万ゴルドで、装備一式……っていうかほとんど盾の値段が26万ゴルド、夜三人分の食事と酒代……が30万ゴルド……計57万ゴルドかな?」
「……って、え? なに、酒代が装備より高いの?」
「な、なにせ、この店で一番高い酒持ってこーい! って言ってたからなあ……」
「そ、そうか……なんか暴れてたよな。ディアーナのやつ。めんどくさいから放置していたが……そうか、そういうことか……おい! ふたりとも! 起きろ! 起きやがれ! 起きて働かねーと売り飛ばすぞ!」
「なになに~い、朝なの? 朝酒なの?」
「ダンジョンに行くんだよ! 出稼ぎに!」
「頭痛いからパスで……」
「ディアーナ! お前のほうがよっぽどくそニートじゃねーか! ちっぱいでニートじゃ使えんぞ!」
「おい、ヒカル。あんた今なんて言ったの?」
「ニートじゃ使えんぞって……言ったんだよ」
「その前よ! なんか言ったでしょ。言ってはならぬ禁忌を……」
――バサッ
「禁忌?」
そのとき、突然エレナが目を覚ました。予備動作もなく突然に体が起き上がるものだから、まるでポルターガイストのようだった。
「我が、禁忌を破らんとする者は貴様達か! 思い知れ! いざ滅死消去!!!」
――パコンッ
ヒカルが頭をたたくと、エレナの目隠しが取れた。どうやら寝ぼけているらしい。
「おいエレナ! なに寝ぼけながら皆殺し呪文唱えようとしてんだよ! 殺す気か!」
「ふひっ 残念デス」
「……おいディアーナ、おまえエレナの教育係な、ちゃんとしつけとけよな」
「えーやだー、こんなきしょい子は~」
「きしょいとはなんデスか! お騒がせ女神のディアーナが!」
「なにを~~~」
「あのさ……」
三人の様子を呆れてみていたエマだったが、なんとか間に入った。
「アンタたち金ないんだよね?」
「お、おう……自慢じゃないがな」
「このくそニートヒカルが甲斐性なしだからね」
「死ぬのデスか?」
金と聞いてディアーナの目が光った。
「だったらさ、ちょっと耳寄りな話……あるんだけど」
「……それは……盗賊的な……アレか? だったら断る……金が見合わなければな!」
「いやいやいや、それはボクらの本業だから頼みなんかしないさ」
「そ、そうか……そうだな」
「前に話したハナモグラ……あっただろ?」
「お、おう。珍味のやつだな」
「ハナモグラってあれでしょ? ちょー旨いって評判の肉!」
ハナモグラと聞いてディアーナの口からよだれが垂れた。
「そそ。そのハナモグラがさ、ダンジョンの20階層から下に大量発生してるらしいんだよ」
「ほほう……それを? 俺たちに取って来いと……そーいうことか?」
「そうそう。まあ20階層って言ったら、なかなか厳しい階層だから……無理にとは言わないんだけどさ」
「ふっ ふははははは! 俺たちをなんだと思ってる? 俺たちはなぁ~ ダンンジョンマ……」
「ヒカル! しぃ~~~~ それ言ったらダメなやつだよ」
「そ、そうなのか?」
「あったりまえじゃん! ダンマスだなんて知られたら寝こみ襲われて即死だよ即死! ダンジョンの外で死んだら復活もままならないんだからさ。そんなことを外でベラベラしゃべったらダメに決まってるっつーの! 少し考えればわかるでしょ? アンポンタンが!」
「…………ふーん……ま、こいつアホだから気にしないでくれエマ。俺たちは……ダンジョンマスター……スレイヤーを目指す冒険者なんだよ」
「あ、ああ……」
ヒカルはいつかのエマのセリフを思い出していた。女神禁猟区、たしかそんな風に言っていた。だからごまかそうと話を変えた。
「で? いくらになるんだ? ハナモグラって」
「え?」
「一匹捕まえたらいくらになるんだ? って聞いているんだが」
「あ、ああ……普通のサイズなら1匹1,000ゴルドで買い取ろう」
「ほほう……ってことは……570匹か! 借金返済に必要なのは! 明日からのことも考えて……よし、千匹捕獲を目指すぞ!」
「え~モグラとかめんどいんですけど~私ってば、食べるの専門だしぃ~」
「ディアーナ! お前が主犯格だろ! 酒代くらい自分で稼げ!」
「モ、モ、モグラデスか? ネ、ネズミ的なやつデスよね? えっと……ワタシはお留守番で……」
「エレナお前も飲んだんだろ! 行くんだよ! 働かざる者飲むべからず! だ!」
「ふへへ~い」
こうして3人は朝食もそこそこにダンジョンへと向かった。
ただし……もちろん、一階からちまちまと……ではなく、30階層に飛んでから上へ向かうというズルをしようとしていたのだが……
「そーいえばさぁ~ハナモグラのヌシには気を付けてね! あれは超凶暴なだけじゃなく……って、もう居ないし!」
エマが忠告しようと戻ってきたとき、すでに三人の姿はなかった。
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