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第30階層の魔王と勇者
「おいディアーナ、行くぞ! てか、どうやってダンジョン行くんだよ」
「ふへぇ~。今日は休みになんない?」
「できるのか? そんなこと」
「ん~~~~できない」
「なら行くしかねーだろ」
「しょーがないなあ~」
ヒカルは昼飯用のサンドイッチをエマから受け取ると、ディアーナを叩き起こした。しかし、ディアーナは二日酔いでぐったりしたままだった。
「アレだよアレ、えっとアンタだと……左手だっけ? の甲を右から左に三回擦ると刻印が浮かび上がるから、そのままどっかの壁に手を当てれば扉がひらくよ」
「こ、こうか?」
ヒカルは言われたように手を擦ると刻印が現れた。昨日は気が付かなったが数字の他にも何やら意味不明な紋様があった。その手を部屋の壁にあてた、すると刻印が輝きだし、その輝きが壁へと伝わっていった。そしてやがて、ダンジョンを出てきたときと同じような扉が現れた。
「おお~魔法みたいでカッコいいな~。じゃ行くぞ!」
「私も行かないとダメ?」
「そ、それはダメだろう。たぶん、きっと、ダメだろう」
「ちっ、仕方ないなあ~」
ヒカルはなんとかディアーナを引きずりながら扉をくぐった。すると、そこは昨日の30階層だった。
「でも私、戦えないよ」
「もとよりオマエの魔法だと俺まで丸焦げだからな。なーに大丈夫、今回は俺もフル装備だぜ!」
「ぬ? そーいえばアンタ見慣れないの持ってるじゃないか」
「フンッ! オメーが寝てる間に仕入れたのだよ」
「ふーん……なんか……禍々しいものを感じるけど……大丈夫なのかね」
「だ、大丈夫だろ。なんつったって俺は不死身!ではないが、それなりに命があるからな! 目指せ! 巨乳ハーレムだ!」
「はいはい、じゃ私は端っこで寝てるからね。好きにやってちょーだい」
ヒカルは早速、ローブをかぶり、盾と剣を構えた。自分の姿を見ることはできないが、なにか得体のしれない力を感じ、『これならイケる!』と思った。
――ガチャリッ
そのとき、間をおかず入り口の扉が開いた。
「うおー今回は最速記録じゃね? やっぱ朝の速攻は有効なんだなあ」
それは4人組の立派な身なりのパーティだった。騎士だか剣士風の男が2人、おそらくアーチャーであろうエルフの女が1人、僧侶のような格好のたぶんプリーストの男が1人のパーティだ。その中のひとり、ヤンチャそうな剣士が喋りながら入ってきた。
「ん? オマエ、なーに? 人? バケモン?」
その陣容に少し焦りを覚えたものの、ここは踏ん張りどころ、とヒカルは頑張った。
「フハハハハアー 我は第30階層の魔王! ここを通りたくば我を倒してゆけ~い」
「…………だってよ? やっちまう?」
ヤンチャ剣士はまったく臆することがなく剣に手をかけた。
「なにを言っている。どう見ても、フツーの人間じゃないか。冗談だろ。いちいち真に受けるなシド。な? あんたそーだよな?」
「…………え? あれ? いやあ~あははは」
もうひとりの騎士風の男が、ヤンチャ剣士=シドをなだめている。驚いて逃げ出すだろうと期待していたが、あまりに平然とした冒険者達を見てヒカルは少し自信がなくなってきた。
「ふむう……どうやら呪いに取り憑かれているようです。私が祓ってさしあげましょう」
それはプリーストだった。プリーストの親切、大きなお世話とも言う。により――
「あっはぁ〜ん……」
ヒカルの呪い武装はあっという間に祓われてしまった。
「坊主、良かったな〜。コイツは地上じゃあちょっと有名な司祭サマだ。除魔の魔法は地上でやりゃー10万ゴルドはするってシロモノだぜ」
「やめてください。ダンジョン内では仲間。仲間を助けるのに理由は要らないのですよ。神の加護のあらんことを」
「あ、ありがとうございました」
ヒカルは自然と頭を下げていた。
「じゃーよ、俺らは先行くけど大丈夫かい?」
「あ、はい。大丈夫です。あ、あのう……お名前をお聞きしても?」
「ウチらはあそこにいる英雄アレキシスのパーティーさ」
名乗ると、その勇者パーティーは颯爽と下の階に向かっていった。
「ヤベー、フツーにカッケー。俺もあんな風になりたかったなあ~」
結局、昨日のアマゾネスのような力押しだけのパーティは稀だった。たいていはプリーストやクレリック、モンクなど回復役が必ずいる。一応そのたびに呪いのローブをかぶり、呪いの剣をかざすのだが、そんな相手には呪いアイテムは効かない。そして、そもそも、ハリボテと虚勢では30階層に到達する冒険者にはまったく通用しなかった。
――28/30、27/30、26/30…………
そこで、回復役が居るパーティは素通りさせるしかなかった。
「ってディアーナ! 冒険者を通すたびにライフ減ってるぞ」
「そりゃあそーでしょ。ダンジョンマスターはフロアを守るのが役目。その役目を果たせなければ死ぬのが定めなんだからさ。んなことより私のお尻の刻印も消してよね」
「ったく、誰のせいでこんなことになってるんだよ」
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