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「高水、すげえよな」
隣で声がしたので、光軌はやっと裕から目を離した。
いつも半笑いを浮かべて光軌の隣にいる、同じ陸上部の相原だ。
「すげえと思う。……俺、そんな見てた?」
「見てた。お前、美術の時間いっつも高水のこと見てるよ」
相原は意地悪そうに笑う。
正直光軌には自覚がなかったので、そうかな、と相原の言葉に首をひねった。
真っ白なスケッチブックが並ぶ中に、真っ黒に書き込まれた絵があれば、それが目に止まるのはごく自然なことだ、と光軌は思う。
「お前と高水、たまに喋ってるよな」
相原はちらりと裕を見る。
「そうだな。幼馴染だから」
「あ。そういえばそれ誰かから聞いたな」
驚くでもなく、いつだっけ、と相原は天井を見上げた。
実際、たまに喋ってるとはいえ、光軌はいつも陸上部の面々とつるんでいて、裕と話している時間はほぼ無い。
逆に、「たまに喋ってるよな」と指摘する相原の情報力には感心する。
相原はそのルックスの良さから、女子と仲良くしていることが多い。仲良く、というのはもちろん、恋愛関係や、肉体関係も含め、だ。
いつか女子同士の修羅場に揉まれて刺されるのではないかと、光軌は本気で心配している。
そういうこともあり、相原のところへ自然と学校中の噂や情報が集まってくるらしい。
彼女もおらず陸上のことが頭のほとんどを占めている光軌には、一体どうしてそんなことになるのか想像もつかない。
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