1. 幼馴染

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「じゃあ高水の<あの噂>も知ってんの?」  相原が急に声をひそめた。  光軌はきょとんと首を横に振る。  裕、なにかの噂になってるのか? 「そりゃお前は知らないよな、陸上バカだもん」  どこか安心したような面持ちで相原は言う。 「悪口かよ」 「ちげーよ、お前は人の噂とかしないだろ。俺と違って。そういうとこを褒めてんだよ」 「いや、全然褒めてなかっただろ」  光軌の不満げな顔を見て、へへ、と相原はまたいたずらっぽく笑う。 「お前が知りたくないなら言わないよ」  今度はまっすぐな目で相原が言った。口元は相変わらず半笑いだが、今度はどこか思いやりを感じた。  裕の噂。<あの噂>。  光軌はもう一度、スケッチブックに無心で向き合っている裕に目をやる。  相変わらず線の細い、まるで彫刻のような整った横顔が見えた。  スケッチブックを見降ろす睫毛は、午後の光に照らされてちらちらと瞬いている。  俺はあいつのことを何も知らない。ただそこには幼馴染という肩書きがあるだけだ。  光軌はふと口を開いた。 「……知りたい」
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