1. 幼馴染

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 相原は目を丸くした。 「え、いいの?」  光軌は無言でしっかと頷いた。  相原の椅子がギッと音を立てて光軌の方へ近づく。相原は声をひそめた。 「美術教師の常陸(ひたち)とデキてるらしい」  全く予想だにしなかった言葉だった。しかし光軌は表情を変えなかった。  常陸は、中年の美術教師で、男であるにもかかわらず。 「……全然驚かないな?」  アレおかしいな?と相原は首をひねった。  光軌はなんとなく知っていた。裕は女性ではなく男性に惹かれる性質であることを。 「いや、めちゃくちゃ驚いた」  その相手が、常陸であることには。 「じゃあ顔に出せよ、なんか怖いだろ」 「すまんすまん」  笑ってごまかす。五限の終わりを知らせるチャイムが鳴った。  教室を出る時、もう一度だけ、と思って裕の方を見た。  さらさらとした前髪がふっと揺れて、その大きな瞳が見えた。  あ。  視線がパチンと交差する。  その綺麗な顔に、表情はない。それでも光軌は、心の深い場所をノックされたような、変な衝撃を受けた。  その瞳はあまりにも真っ直ぐ光軌を捉えていた。  まるで、他には誰も見えていないと高々に宣言されたようだ。  そして光軌はあの放課後を思い出した。  中三の冬。裕にキスされた教室を。
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