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川の神へ女子を捧げる為には、両親が自分達の手で娘を滝つぼへと落とすのが掟だった。
先に落とされる女子は、叫び声を上げた子からだった。
彼女の口には布を巻いたままだ。
「んー! んんーー!!」
彼女の母親が彼女の背後に立つ。彼女の家は母子家庭だった。父親は、去年病で倒れてしまい他界していた。
「……。香……」
「ん……」
香の目隠しが少しずれ、母親の方に顔を向けた。
「!」
泣いていた。あの強くて優しい母親の目から涙が流れていた。
「香……。ごめんね、ごめんなさいっ」
母親の謝罪が香の胸を締め付ける。
母親の後ろでは、村長が何かを言っていた。
「川の神よ、今から【人柱】を貴方の元へ捧げます。どうか、今年も厄災が訪れないよう願います」
村長の私利私欲のような物言いに、香の感情に怒りが込み上がってきた。
「さあ、天野香を川の神に捧げなさい」
村長は、香の母親にそう促す。母親の手が震え出す。
「香……かおり……っ」
香は母親の方に向きを変えた。母親の目が見開いた。周りの村人達も「なんだ?」と、騒つく。
香は母親の顔をしっかり見て、笑顔を見せた。
ーーお母さん、ありがとう。さよなら
「香ぃいいいい!!」
香は自分で滝つぼへと、身を投げ入れた。
滝の渦に飲み込まれる直前、香はこう願っていた。
『死んだ後も一生、恨んでやる!!』
香の恨みは滝の中へと、消えていった。
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