青い月

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*** 「そうやって助かったのが俺」 カイは防波堤から身を投げようとしていた娘に語った。 「人間、選択で人生は成り立ってるけど、自分だけの選択じゃねえよな。 あんた、そのお腹、赤子がいるんだろ?その子はあんたの選択で人生が決まる訳だ。 ここで俺と会ったのも何かの縁。自殺なんてやめるんだな」 娘ははっとしたように自分のお腹を見つめた。そして、戸惑うようにお腹をさすると、一度目を閉じた。 「そうね。もう、どうしようもないと思ったけど、もう一踏ん張りしてみるわ」 「そうしろや」 カイはそう言って防波堤を後にしようとした。そのカイの歩みを止めたのは、 「カイ!その女だ!リーの子供を身籠ってるのは!」 という兄貴分のクウの声だった。防波堤に向かってくる。 「この女、なのか?」 髪の色が違うから油断していた自分にカイは舌打ちする。娘の方を見ると、娘は怯えた目で見つめ返してきた。 「くそっ」 カイはやり切れない思いに一度こうべを垂れたが、苦い笑いを浮かべて娘を再度見た。娘の目には涙と怯えが浮かんでいた。 「わりぃな。俺も生きてかなきゃいけねえんだわ」 カイは娘を後ろから海へ突き落とした。 息を切らしてやってきたクウは、 「女をどうした?」 と訊いてきた。 「……銃で撃って海に落としました。助かりはしないでしょう」 「そうか。明日死体が出るのを待とう」 カイは心のどこかで願っていた。娘が助かることを。もし娘が生き残れたなら世の中捨てたもんじゃないと。神様を信じてもいいんじゃないかと。 「まあ、まさかね」 あの日と同じ青い丸い月が、海を白く照らしていた。娘が落ちた時にできた波はすっかり凪いで、海はただ静かに月明かりを受け止める。 「ああ、月が綺麗だ」 カイは目をぐいと擦った。 月は綺麗なだけで何もしてはくれない。 了
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