固い絆

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固い絆

「……隊長。 さっきの星では支援物資を受け取るとみなが大喜びしてくれて本当に嬉しかったですね」 灰色の毛が生えた二足歩行で歩く犬が、そう笑顔で言った。 「ああ、そうだな。 あの笑顔を見れるだけで、本当にこの仕事を続けていて良かったと思うよ」 隊長と呼ばれた赤毛の犬もそう頷きながら答える。 その二人の会話の間も宇宙船は次の目的の星へと静かに進み続けていた。 「そろそろ次の星にも到着するだろう。 よし、お前は他のみんなを呼んできてくれ。 私はコックピットで着陸の準備に入る」 「了解しました。 おーい、みんな集まれ!もうすぐ到着するぞ!」 大声で叫んだ部下の声に応じて、隣接する隣の船室から何人もの人間たちが飛び出してきた。 彼等イヌ族が故郷の星を支配し始めてから約1000年。 イヌ族達は人間達をペットとして飼い慣らし、人間達もイヌ達に忠誠を誓わされ、毎日タダ働きを強いられていた。 しかし、彼等二匹のイヌ族だけは他のイヌ族のように乱暴に人間達を扱ったりする事は決してなかった。 まるで家族のように幼い頃から大切に教育し、そして同じ銀河パトロール隊員としてみっちり鍛え上げてきた。 もちろんタダ働きなどはさせず、必ず月に一度ある給料日で高額の小遣いを支払ってきた。 彼等は10年以上育ててきた固い絆で繋がっているのだ。 その為種族は違えど、お互いの言葉はすぐに通じるのだ。 毎日ロケット内は明るい雰囲気で活気に満ちていた。 しかしその時、思わぬトラブルが発生した。 ロケットのエンジンルームから火が上がったのだ。 長きに渡る旅でエンジンがすっかり錆びてしまっていたのだろう。 このところあまりにも忙しく、点検する余裕などなかったのが大きな原因であった。 「まずいな、もうすぐ到着だと言うのに。 目的の星までこのまま持ちますか!?」 部下は慌てて尋ねたが、コックピットに座る隊長は首を横に振った。 「いいや、多分もたないだろう。 このまま近くの星に不時着する!」 その隊長の言葉と共にロケットは大きな揺れに襲われながら星へと高度を落としていった。 隊長の素晴らしい操縦テクニックにより、ロケットは無事不時着に成功した。 窓から二人はあたりを見回す。 「おい、ここはどこだ?」 隊長の問いに部下は慌てて銀河マップを開くと、現在地を特定させた。 「ここは地球という星のようですね。 しかし判明している情報名前だけで、どのような生物がこの星を支配しているかは不明です」 「地球か……。 とりあえず調べて見なければ何も始まらない。 とりあえず探索を開始しよう」 2匹はロケットを出て探索を始めたが、この時予想だにもしない事が起こった。 不時着の際に起こった大きな音を聞きつけたのか、突然銃を構えた何人もの人間達に周りを囲まれてしまった。 「これはいかん。 この星はどうやら人間が支配する、我々とはあべこべの星らしいぞ」 「ど、どうしましょう……?」 隊長と部下が銃を持った何十人もの人間達に囲まれ、絶体絶命のピンチである。 二人とも流石に死を強く意識した。 しかしその時、 「お待ちなさい!」 と大きな声が聞こえた。 船内にいた仲間の人間達が我々の危機に駆けつけてくれたのだ。 「後は我々にお任せください。 どうやら彼等も同じ人間の種族である様子。 なんとか私達が交渉してみせましょう」 そう笑顔で言うと、仲間の人間達はこの星の原住民達との交渉を始めた。 身振り手振りでお互い話し合い、たまにクスリとした小さな笑いも起こっていて、とてもいい雰囲気で交渉が進んでいた。 やがて交渉が成立したのか、原住民と仲間の人間達はイヌ達の方にゆっくりと向き直ると言った。 「事情はよく分かった。 貴方達を客人としてこの星に歓迎いたします、と彼等は仰ってくださいました」 その言葉に隊長と部下は胸を撫で下ろし、心の底から安心した。 「そうか、よくやった! ではお言葉に甘えて、ロケットが直るまでの間、お世話になるとしようか」 そう呟くと隊長等は原住民に案内され、都市へと招待された。 これが悪夢の始まりとも知らずに。 都市に入ると同時に、彼等はビルに隠れていた複数のスナイパーに麻酔銃で狙撃されたのだ。 何が起こったのかわからず、薄れゆく意識の中で彼等は最後に仲間であった筈の人間と少し言葉を交わした。 「ど、どういうことだ? なぜ私たちを裏切ったのだ? 私達はお前たちをまるで家族のように大切に育ててきた……。 だ、だからこそ固い絆で繋がっていた筈だ……。 なのにどうして裏切った……? まさか原住民の奴らにお、脅されているのか?」 痺れた口を必死に動かし、人間たちに尋ねる隊長。 しかし、そんな必死な彼の形相とは裏腹に、人間達は余裕の笑みを浮かべて語り始めた。 「貴方達には本当によくして頂いたのですがねぇ。 原住民である彼等が、交渉中に言ったんですよ。 アンタらをうまく騙してここは誘い込めば、我々の命を助け、その上にアンタらから貰っていた小遣いの100倍やると言われましてね? そこで我々は思ったんですよ。 どうして今までこんなイヌどもに従ってきたんだろうってね。 だからこそ我々は総意の上で地球側に着きます。 以後よろしく」 「に、人間どもがぁぁぁ!! お前達は私達との10年以上の固い絆や育ててもらった恩よりも、裏切った事で得られる汚い金を優先するのだな!? やっぱり奴隷としてお前達人間は働かせておくべきだったなぁ! それが私たちの最大の失敗だ! このクソッタレめ!」 「はいはい、そんな痺れた、だらしない身体で言われても何も怖くありませんよ。 さて、彼等の話によると今からあなた方は研究所へと運ばれ、実験材料となるそうです。 さぁ、楽しみですね? 私たちも是非、あなた方の実験の様子を見学させていただきますよ。 それではこれで。」 その言葉と共にイヌ族の二人は原住民達に首輪をつけられ、研究所へと引きずられて行った。 ワンワンと、怨念に満ちた怒りの声をあげながら。
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