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流石に明るい柿野も断腸の思いに駆られ、自分の前途を悲観し、危惧したのに違いなかった。僕も全く同じ思いになり、「ああ、全くだ・・・」と答え、彼と意気投合すると、僕らは愈々愁然たる面持ちになり、がっくり項垂れ、哀しみの内に亦も沈黙した。
そんな折、「柳の下にいつも泥鰌はいないか・・・」と僕が思い、益々僕の顔に暗い影が落ち、悲壮感が漂った時、柿野は思い切って呼び掛けた。
「ケイタ!」
僕はハッとして思わず、「おう!」と答えるや、顔を上げた。
「まだ引っ越しまで間が有るけど僕、この場を借りて言わせて貰うよ!」
「ああ、言ってくれ!」
「僕、ケイタの事、一生、忘れないよ!」
ほんの半年程の交友だったのに深い友情を示してくれた柿野に僕は深く感動して沈んだ心が昂揚して来ると、態度を荘厳にして、けれども、お道化を伴って、まるでミュージカル俳優の様に身振り手振りを交えて声を張り上げてこう言った。
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