三月の風、一輪の花

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 家具の配置が違うだけの、我が家と同じリビングで、彼はソファーに寝ころんでテレビを見ていた。 「陽希(はるき)」  背中に向かって名前を呼ぶ。 「ご飯、食べたの?」  私の声と、バラエティー番組のわざとらしい笑い声が重なる。 「……食った」  背中を向けたまま陽希が答えた。  私は足元に散らかっている、雑誌や脱ぎっぱなしの服を拾い上げながら、テーブルの上のカップラーメンの空容器を見る。 「また、そんなもの食べて」 「じゃあ、作ってよ」 「今日は無理」  カップラーメンの残骸を隅によけて、テーブルの上に花束をのせた。陽希の視線がちらりと動く。 「なんだよ、それ」 「結婚祝い。いや、退職祝いかな? 今日で会社辞めたから」 「ふうん」  どうでもいいように言って、陽希はまたテレビを見る。私はそんな陽希のそばに座りこみ、ぼんやりと同じ画面を眺めた。  薄暗い部屋に、テレビの灯りだけが眩しく光る。明るい笑い声も派手な音楽も、どれもただの作り物に思えて、私の耳を素通りするだけだ。 「今日、おじさんは?」 「夜勤」  答えながら急に起き上がって、陽希はリモコンでテレビを消す。しんと静まり返った部屋の中で、私は陽希の横顔を見た。
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