三月の風、一輪の花

3/13
46人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「じゃあ」  軽く言ってドアを開ける。涼介はハンドルに手をかけたまま、私のことを見ている。 「……寄ってく?」  我が家のカーテンの隙間からは、暖かい色の灯りがもれていた。まるで幸せな笑い声でも聞こえてきそうな。 「いや、いい。また明日来るよ」  涼介が言う。見つめ合って、どちらともなく軽くキスする。 「じゃあ、おやすみ」 「また明日な」  花束を抱えながら、涼介の車を見送った。  いつものように、その車が右折するのを確認して、門の扉に手をかける。  その時ふと、私は隣の家に視線を移した。  我が家と同じ造りの、建売住宅。  越してきたばかりの頃は、自分の家と見間違えてしまったほど、そっくりな家。  だけどその家の灯りは、ぼんやりと薄暗くて……私の足は、自然とお隣さんへ向かっていた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!