三月の風、一輪の花

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 庭の小さな花壇に、部屋の灯りがうっすらと映っている。  薄闇の中で、ひっそりと咲く名前も知らない花。それを横目に、インターフォンを押そうとしてから、手を止める。  ドアノブに手をかけると、思った通り鍵は開いていた。 「こんばんは」  返事がないことを知りつつ、一応言って玄関に入る。  だらしなく脱ぎ捨てられている、見慣れた二十七センチのハイカットのスニーカー。  私はさりげなくその靴をそろえてから、家に上がりこむ。  我が家と同じで我が家と違う、床の感触。「よその家」の匂い。  ほのかに薄明りがついているのはリビングだ。私は真っすぐその部屋へ向かった。
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