三月の風、一輪の花

1/13
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

三月の風、一輪の花

(かえで)さん、お疲れさまでしたぁ」 「結婚式、楽しみにしてるねぇ」  春色の花束を抱えた私は、同僚たちの冷やかし混じりの声に見送られ、オフィスを後にする。  大学を卒業後、六年間勤めたこの職場とも、今日でお別れだ。  だけど私には、寂しい気持ちも嬉しい気持ちも、何の感情も湧いてこなかった。  いつものようにビルを出る。  そんな私の姿を待ち構えていたかのように、軽くクラクションが響く。  道路の反対側の駐車場に、涼介の乗った車が見えた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!