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三月の風、一輪の花
「楓さん、お疲れさまでしたぁ」
「結婚式、楽しみにしてるねぇ」
春色の花束を抱えた私は、同僚たちの冷やかし混じりの声に見送られ、オフィスを後にする。
大学を卒業後、六年間勤めたこの職場とも、今日でお別れだ。
だけど私には、寂しい気持ちも嬉しい気持ちも、何の感情も湧いてこなかった。
いつものようにビルを出る。
そんな私の姿を待ち構えていたかのように、軽くクラクションが響く。
道路の反対側の駐車場に、涼介の乗った車が見えた。
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