calando

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静まり返った部屋に僕はしばらく居た。 時おり外から聞こえてくる学生の大きな笑い声。 「今のはファかな?相手の子は、、、ミ?」 「ばーか」 後ろから不意に罵られ一瞬体が強張ったが、すぐにその声の主に気づき肩の力が抜ける。 振り向くと、そこには真っ赤な髪の毛をした男がこっちをニヤリと笑いながら立っていた。 「幹人(みきと)」 彼は山吹幹人。 僕にとって唯一無二の存在。ただ一人の友達だ。 「何が幹人だよ。授業終わったら席取っておくから食堂に来いって言ったろ。それなのにお前ったら」 「ごめんごめん。なんかさ、考え事しちゃって」 「考え事?って、お前いつも何かしら考え事してるみたいだけどさ、疲れないわけ?」 「んー、どうだろう。癖になってるから、なんとも思わないかな」 「はぁー。考え事してんのに、何にも思わないってどういうことだよ。それって何も考えてないって言ってるようなもんだぞ」 「うーん、そんなつもりはないけど、、、」 「あー、もう。この話は終わりだ終わり。 とにかく、メシだ!メシ食って腹一杯になれば、余計なことなんか考えずに眠くなっちまうよ」 幹人に両脇を掴まれ無理矢理立たされると、母猫が子猫を連れていくように、幹人は僕の服の襟をつまみ、後ろ歩きの僕はされるがままに食堂に向かった。 和やかと言えば和やか。ただ見る人によれば真っ赤な髪をしたハデな男に、おどおどした男が連れ去られている。拉致?とも言えるようなその光景。 遠ざかる教室を見送りながら、僕はこの光景に小さく呟いた。 「ありがとう」 聞こえないほどの蚊の鳴くような言葉に、見えない幹人の顔が少し微笑んだように感じた。
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