giocoso

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「あー、腹へった。って!あぁー、もうBランチ終わってんじゃん!」 幹人の絶望した表情は、正に主演男優賞を受賞してそうな俳優さながらであり、次の瞬間こちらに哀しみの眼を向けた。 見つめられた僕はどんな顔をしていいか分からず、精一杯の苦笑い。 「はぁー。お前が女でもそのリアクションは許せんわ」 主演女優賞取れず。 「毎週金曜のBランチを俺がどれだけ楽しみにしているか、お前知ってるだろ。 それなのに、お前ときたら。教室で一人ドだのレだのと、、、」 「あぁ、ファとミね」 「あぁ、ファとミね、、、。 じゃねーよ!お前はガミガミとうるせー音楽の先生か!」 「ガミガミだなんて、僕はそこまで、、、」 僕が言い切る前に頭に拳骨が一発。 「ばーか。 おばちゃーん、俺Aランチ一つ! あと、こいつがおばちゃんの特製幕の内が食いたいって!」 「あら幹人くん。今日は遅かったわね。 いつも金曜のBランチを誰よりも楽しみにしてくれてるお得意さんなのに」 「そうなんだよー。そのために誰よりも早く食堂に来てたのにこいつがさー」 「奏くんがどうしたの?」 誰とでも仲良くなれる幹人と違い、人見知りで引っ込みじあんな僕。 話の中心にありながらも下を向きもじもじとするばかり。 それに見かねたのか幹人はそれ以上突っ込むことはせず、「なんでもない」と返しトレーを自分の分と僕の分を取りその場を後にした。 それぞれの料理を受けとると、二人座れる席を探し着席。 「いっただっきまーす!」 腹が減ってる人とは思えないような幹人の豪快ないただきます。 それに相反するように、もう一週間は何も食べていないよう人の発する僕のいただきます。 まるで光と影。陰と陽のような僕らが、何故このように友と呼べる存在になれたのか。 それは後々話すとして、僕がまずすべきことは目の前にそびえ立つオカズの宝庫を胃袋に納めることだった。 「幹人、あのさ。確かに僕は一度だけ君の食べてたおばちゃんの特製幕の内を一口もらっておいしいって言ったけどさ。さすがにこれ、僕一人じゃ食べれないんだけど」 そう。この特製幕の内はただの幕の内ではない。 どこの誰だか知らないが、あれやこれやとオカズを追加注文する学生がいたらしい。 それが毎回続くものだから作る側は一つずつ注文を聞くのが面倒になり、その結果出来上がったのがオカズが山盛りてんこ盛りの特性幕の内。 仮に僕がこれを完食出来たとしよう。 しかしその結果、この身にどのような結末をもたらすかは目に見えている。 大リバース。 「はぁ?誰がお前一人で食べろって言った?」 「え?違うの?」 「当たり前だのクラッカー!」 古、、、 「あ、お前いま古いって思ったろ? これは最近親父に教えてもらった必殺ギャグだぞ! って、まぁーこれ言って誰も笑ったことねーけどよ」 「ぷふ。ぷふふ」 「え?今お前笑った?」 「いや。ギャグに笑ったって言うか、なんか必死になってる幹人がなんだか可笑しくて」 「なんだよ、ちげーのかよ。てかお前サラッと俺のことバカにした発言したよな。傷つくわー」 「え、いや。そんな。してないよ」 戸惑う僕を幹人は笑った。 「ぷははは。そんなにおどけんなよ。 お、それ旨そうだな」 幹人の箸が踊るように特性幕の内のオカズを拾い上げ口の中に放り込まれる。 みるみる内にオカズが無くなり、気づけばどこにでもあるようなごく一般的な幕の内に。 「ふぅー、これぐらいで勘弁してやる。これでBランチのことはチャラな。あ、食った分金払えとか、後で言うんじゃねーぞ」 そう言うと、今度は自分のAランチを美味しそうに食べ始めた。 怒ったり、笑ったり、哀しんだり。 ピエロのような道化ぶりを見せる幹人。 そんな彼はやはり僕が知る限りでは、一番の主演男優賞受賞者だ。
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