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Allegretto
今さらだが、それこそ誰も興味がないと思うが、親友の幹人とは大学に入ってから知り合った。
始めての会話の出だしはこうだ、
「あの、検尿するのって2号館だったっけ?」
それが幹人から発せられた僕への初の言葉であった。
「、、、?え?」
「いや、急にごめんな。さっき健康診断の説明ちゃんと聞いてなくてさ」
「あぁ、うん。2号館の玄関入ってすぐだって言ってた」
「そっか、あんがと!あっ、俺は山吹幹人。学部は文学部で社会学科だ、よろしくな」
「よ、よろしく。僕も同じ文学部で社会学科だよ」
「へぇー、同じ学部の同じ学科か。それならなよく会うかもな!で名前なんて言うんだよ」
「奏。神崎奏」
「神崎奏か。なんだか綺麗な名前だな」
純粋。それが幹人への僕が抱いた第一印象だった。穢れを知らない無垢な子どものよう。
しかし純粋とはかけ離れていると言ってもいい程彼の髪は当時から赤く、そのギャップのせいなのか分からないが、僕は彼の存在に何か惹かれるものがあった。
そんな彼、幹人は今目の前で腹を満たし満足げな顔をしている。
「幹人は変わらないね」
「は?どうしたんだよ急に」
「いや、なんだか初めて君に会った時のことをふと思い出してさ」
「ふーん。俺はあんましはっきりとは覚えてねーけど、俺が何か言ったらお前顔を真っ赤にしたのだけは覚えてる」
「そ、そうだっけ?」
「あぁ、それは確かだ。えーと、なんだっけっな?なんかが良いだの綺麗?だの?」
「そ、そんなことより何か飲まない?僕コーヒーでも買ってくるけど」
「なんだよそんなに慌てて。でも確かにコーヒーを丁度飲みたかったんだよな。おう、悪いけど俺の分も一ついい?」
「もちろん!じゃーちょっと待ってて!」
勢いよく立ち上がると、僕は自分の顔があの時のように熱くなるのを感じながら早足で食堂の外にある自販機に向かった。
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