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marcato
「ねぇ聴いたあの曲?」
「当たり前じゃん、リリースされてすぐ聴いた!」
「だよねー。もうあの声なしには生きられないって感じ」
「えー、それは言いすぎじゃない。でも確かにあの声を生で、それこそ耳元で聞けたらって思うと、、、」
「なによ、言いすぎじゃないとか言っておきながら、顔がニヤけちゃってるじゃん」
自販機でコーヒーを買う僕の耳に、自販機横で立ち話をする二人の女の子が話す会話が入ってきた。
どうやら誰かが歌う新曲についてのようだが、二人ともその誰かにお熱のよう。
それほど、自分を通して他人に何か感じさせる、この場合良い意味で。それはすごいことだと思う。
けれど、そんなことを成し遂げられるのはほんのごく一部の人間であり、大半はそれに憧れるしかない存在である。
その大半に僕はいるわけであり、これからの人生で一度でも誰かに何か感じてもらえる存在になれる気はしない。
たとえあったとしても、それはきっと悪い意味でのことだろう。
「おー悪いな」
「いや、気にしないで」
、、、、
「どした?また例の考え事か」?
「え!?いや、別に僕は」
「言葉と顔が真逆だっての。本当、お前って分かりやすいよな。いや、逆に分からない、、、か。なんかさ、いつも何考えてんだか分からない、そんな危うさをいつもお前はもってるんだよな。一人で抱え込みすぎて、そんで最後は溜まったもんが爆発しそうで。爆弾人間?みたいな」
「あはは、、、。
うん、爆弾人間か。的を得ているかもしれない」
「おいおい、俺は冗談で言ったんだぜ。うん、だなんて恐ろしい返しすんなよな。で、何考えてたんだよ?」
「うん。幹人はこんなこと一々考えたりしないかもだけど、僕は一体どんな存在なのかなって」
「、、、。え?」
「そうだよね。そうなるよね」
「いや、あまりにも簡単なことだから唖然としただけで、別にお前を変な奴だなんて思ってないよ。てか、そんなこと考えるお前含めて俺はお前だと思ってるからさ」
「え?そうなの?」
「はぁー。お前は俺のこと分かってないのな。で、お前の存在がどうのこうのって話だけどよ」
「うん」
「答えは単純明快!お前は神崎奏。この大学の二回生で、俺と同級生。そんでここがミソだ。お前は俺のダチであり、親友だ。それ以上でも以下でもない。お前にとって俺はどんなものか知らないけどよ」
「、、、。ふふ」
「なんだよ、なに笑ってんだよ」
「そうだね。そうだったね。
ごめん、有り難う」
「お、おう。
まぁーそんな哲学者みたいに考えすぎんなよ。人の存在価値や理由なんて、案外身近にあるってことだ。それに、求めても手に入るとは限らない。もし目の前にそれが転がってきたのなら自分で掴み取るのも大事だとも思うしよ」
「、、、。自分で掴みとるか、、、」
この時の僕はまだ知らなかった。
幹人が言ってくれたその言葉が。
僕に選択を迫るとは、、、。
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