第十七話 運命の閉幕

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第十七話 運命の閉幕

 イーヴルエンペラーの愛に満ちた謝辞が耳に響いたと同時に、ウカレンジャー達は穏やかな七色の光に包まれた。イーヴルエンペラーと、彼のジアザー・ディメンションから去る時が来たのである。訪れた時には完全に愛が枯渇していたこの世界も、今では華麗な変化を遂げた。生きとし生けるもの全てが愛を謳歌している。嗚呼、愛情万歳。  ウカレンジャーの面々は美しく蘇ったジアザー・ディメンションを見つめ、愛をもたらした喜びに身を打ち震わせた。その隙にも、ジアザー・ディメンションはウカレンジャーから遠ざかり、彼らは元の世界へと帰って行く。  霧が晴れるようにジアザー・ディメンションが消え失せ、代わりに見慣れた街角がウカレンジャー達の目前に広がった。高校への通学路として亜河たちが使っている道である。そして、この道で亜河と桃が出会い、阿緒と紀伊が恋に落ち、自称神様によって久呂を含めた5人が愛の戦士に選ばれたのである。 「よくやった、ウカレンジャーよ。」 不意に頭上から声が響き渡り、ウカレンジャーは上方を見上げた。雲ひとつない、目に染みるような青空を背景に、後光を背負った自称神様がふんぞり返っていた。相変わらず不景気な面構えと服装が、青空とミスマッチである。イーヴルエンペラーの方がまだ神らしく見える。 「チミ達の働きにより、危機は回避された。愛が世界を救ったのだ。」 「どうでもいから、早くこのふざけた格好をやめさせてくれよ。」 久呂が水を差すと、自称神様は明らかに不機嫌そうに眉をしかめた。 「チミはどうしていつもそういいところで邪魔をするのか。少し黙っていたまい。」 「黙っていて欲しけりゃ、さっさと俺だけでも放免しろよ。悪の親玉も倒したし、もういいだろ。」 久呂の我慢も限界である。仕方なしに、自称神様はむっつりとしたまま、指をぱちんと鳴らした。その瞬間、ウカレンジャー達が身にまとっていたバトルスーツはカラフルな色の光となって、天に上っていった。愛の武器・ウカラヴァも、愛の変身装置・スベル・チェンジャーも、何もかも無くなってしまった。後に残されたのは、元通り学生服に身を包んだ5人の姿だけであった。 「イーヴルエンペラーが愛を得た今、チミ達がウカレンジャーとなって悪と戦うことは最早あるまい。」  少ししんみりとした口調で言い、自称神様は5人を眺めた。 「だが、愛を失い、愛に迷う者はこの世から絶えることはない。これからもチミ達は、チミ達の愛で彼らに愛を知らしめてやって欲しい。さすれば、彼らは愛に目覚め、新たなる世界へと羽ばたくことができよう。」 「わかりました。俺達、これからも頑張ります!」 亜河は、桃と手を取り合い、力強く自称神様に誓った。桃も亜河の傍らで穢れ無き瞳を自称神様に注いで頷いた。グレナディンシロップのように濃密な紅い炎が二人の間で燃え上がっている。目には見えなくとも、しかと感じられる。 「紀伊、一緒に愛を語ろうゼ!俺と君は二人で一人、世界は愛でひとつサ!」 「そうね、これからも一緒よ、阿緒!」 阿緒と紀伊も、これからの交際をやや遠回りな表現で確約した。ウカレンジャーとしての使命が終わったこれからが、彼らにとっては重要なのである。せっかく手に入れた彼氏・彼女をここで手放すわけには行かない。少々打算的ではあるが、これも愛情の一形態であろう。  自称神様は満足そうに目を細め、2組のカップルを眺めた。その視界には、すでに久呂はいない。学生服に戻るや否や、彼は隙をうかがって早々に立ち去ってしまったのである。彼は彼なりのやり方でこれからもこの美しい地球を愛していくことだろう。男女の愛ばかりが愛情ではない。孤高の愛を貫くものもまた、愛である。 「では、そろそろ私は天上から愛に満ちたこの世界を見守ることにしよう。」 久呂がいれば、犬でも追いやるように手を振ったに違いない。しかし、彼は既にこの場にいない。残された4人は目に涙を溜め、天空へ昇っていく自称神様を見つめた。 「ウカレンジャーよ、愛の戦士達よ、チミ達には心から感謝している。さらばだ。愛の祝福があらんことを。」 既に大空の色に溶け込んで、姿の見えなくなってしまった自称神様の声が、ウカレンジャーの頭に直接響く。亜河と桃は自称神様の消えた空に向かって大きく手を振った。 「俺達、これからも人を、世界を、全てを愛して生きていきます!」 亜河の声にこたえるかのように、大空にくっきりと虹がかかる。亜河は拳を硬く握り、天へ向かってまっすぐに突き出した。そして、内に沸き起こる若き情熱を迸らせ、叫んだ。 「愛情、万歳!」
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