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第十六話 運命の戒心
ウカレンジャーの魂の叫びと共に、ピュアレスト・ラヴキャノンから無垢なる輝きが放たれた。世界の愛を集結させたその光は、荒廃したジアザー・ディメンションを明るく暖かく清らかに照らしつつ、真っ黒な霧を切り裂いてイーヴルエンペラーへと驀進する。イーヴルエンペラーは更なる黒い霧を吐き出してそれを阻止しようとするが、愛の結晶たるシャイニング・ソウル・ラヴ・レイを押しとどめることなど不可能である。愛は何よりも気高く、尊く、そして強い。愛に敵対することは誰にもできはしない。ただ、愛を知り、愛に身を委ね、愛に生きるのみなのである。
愛を否定し続けてきたイーヴルエンペラーとて、例外ではない。憤怒の表情でシャイニング・ソウル・ラヴ・レイに挑み続けていたイーヴルエンペラーを、とうとうウカレンジャーの、世界中の愛が包み込んだ。イーヴルエンペラーは身の毛もよだつような叫び声を上げ、苦痛と恐怖に顔を引きつらせた。愛を知らぬが故に、愛を受け入れられないのである。愛を恐れているのである。しかし、愛は愛を知らぬものにも等しく優しい。やがてイーヴルエンペラーの表情の強張りは解け、叫び声には歓喜が入り混じった。愛を否定し、拒み続けていたイーヴルエンペラーに、ウカレンジャーの愛が届いたのである。
「…何と素晴らしいのだ、愛というものは。」
イーヴルエンペラーは嘆息した。その声には最早、愛への憎悪は微塵も感じられない。
「かつて、これ程我が心が満たされたことがあったであろうか。常に荒んだ風が吹き荒れ凍り付いていた我の心に、今や春の息吹が満ち溢れているかのようだ。一体、何故だ?」
穢れを知らぬ童子のような澄み切った瞳で、イーヴルエンペラーは辺りを見渡した。厚い黒雲に覆われていた空は明るく晴れ渡り、ひび割れていた大地は潤い、枯れ果てていた草花は命を吹き返している。ジアザー・ディメンションは、愛によって蘇りつつあった。
「イーヴルエンペラーよ、それはお前が真実の愛を知ったからだ。」
亜河は静かに答えた。イーヴルエンペラーは亜河を含めたウカレンジャー全員に視線を向けた。
「今のお前ならば、人を愛し、人に愛されることができる。だからこそ、この世界も、お前自身も真の意味で生きていくことができる。」
「我が愛されるというのか…邪悪な存在たるこの我が。」
有り得ない、といった体でイーヴルエンペラーは悲しげに首を振った。
「私たちはあなたを、この世界を愛しているわ。」
桃はイーヴルエンペラーに向かってにっこりと微笑んだ。嘘偽りのない慈愛のこもった眼差しでイーヴルエンペラーを見つめる。
「あなたはもう邪悪ではないわ。あなたは生まれ変わったのよ。愛を知るものとして。」
「我が、愛を?」
「そうだ、お前は愛を知っている。俺達の愛を、そして、お前自身の愛を。」
ジアザー・ディメンションには花が咲き乱れ、鳥がさえずり、薫風がそよいでいる。どこからか、鈴を転がすような笑い声まで響いてくるようだ。イーヴルエンペラーはすっかり姿を変えたジアザー・ディメンションを眺め、口元を緩めた。
「…そうだ、我は愛を知っている。我はすべてを愛することができる。この世界は、我の愛で満ちている。世界は、美しい。」
満ち足りた笑顔でジアザー・ディメンションを見守るイーヴルエンペラーは、今では神か仏のように穏やかである。その眼は、世界のすべてを慈しみ、愛する者のそれである。
「ありがとう、愛の戦士よ。我とこの世界はそなたらによって救われた。」
「いや、この世界を救ったのは俺達じゃないゼ。」
阿緒はフッと笑い、イーヴルエンペラーを見上げた。
「君自身の愛の力。それが、君自身とこの世界を変えたのサ!」
「愛はすべてを幸福にする。愛を注ぐ者も、注がれる者も。私達は、それを皆に気づかせているだけ。」
「あたし達は愛を知るきっかけ、後は自分の問題なのよ。」
「お前は己の愛の力でかつての己に克ったのだ。」
阿緒、桃、紀伊、亜河がそれぞれ順に語る。それを聞き、イーヴルエンペラーは感極まって涙を流した。
「…やはり、礼を言わねばなるまい。我に偉大なる愛を気づかせたのはそなたらだ。ありがとう、ありがとう、愛の戦士達(ウカレンジャー)!」
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