第二話 運命の街角

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第二話 運命の街角

 高校ではつつがなく始業式を終え、生徒達は三々五々帰途についた。通知表が無い分、終業式よりは遙かに穏やかな心境である。  だが、落ち着きのない様子で辺りを窺いつつ歩く者がいた。長い髪を風になびかせる楚々たる美少女、浜倶 桃である。 「何をきょろきょろしてるの?」 桃の隣で不審そうに女生徒が眉をひそめた。桃の親友、家路(いえろ) 紀伊(きい)である。引き締まった四肢、日に焼けた肌が彼女の活発さを物語っている。 「何でもないわ。」 「何でもない訳無いじゃない。さては、朝のハンケチ貴公子でも探してるんでしょ。」 紀伊がカマを掛けると、桃は羞じらうように頬を赤く染めてうつむいた。実に初々しく、可愛らしい女性である。普通の男性であれば某かの本能をくすぐられずにはおられない。  紀伊は呆れたように桃を見やり、肩をすくめた。 「名前まで分かってるんだから、どこの組か調べて突撃すれば良かったのに。」 「そんなこと…恥ずかしくて出来ないわ。」 益々頬を赤くして、桃はか細い声を上げた。  すると、ああ、運命のいたずらであろうか、桃達の目の前の角からハンケチ貴公子こと礼戸 亜河が姿を現したではないか!  亜河は何の気無しに左右を確認して道路を渡ろうとし、そして、桃がそこに存在することに気付いた。  二人の視線が交錯し、嗚呼、遂には愛が生まれた!!!二人はお互いを見つめ合ったまま、暫し立ちつくした。二人の間には最早言葉は必要なかった。瞳が全てを語り尽くしているのだった。出会った時から既に彼らは、嗚呼、互いの愛情を確信していたのだ!! 「桃…」 「亜河…」 二人は我知らず陶然として手を取り合った。二人の仲を邪魔だてする者などこの世に存在してはならないのだ。嗚呼、愛情万歳!!  ところが、彼らのラヴ・タイムを妨げる音響が、細道の奥から響き渡った。 「うわーっ!何だこいつら!」 そこでようやく我に返った亜河と桃は、道の奥を覗き込んだ。彼らが覗くとほぼ同時に、細道から阿緒と久呂が現れた。二人とも、蒼白な顔で息を切らせている。 「何だ、どうしたんだ?!」 「どうしたもこうしたもあるか!変な化け物がいきなり襲いかかってきたんだ!」 化け物、と呟いた亜河に、阿緒は道の奥を指し示した。  身長は優に3メートルは超えているだろう。複眼のような目とおぼしき器官が頭に相当する部分に3つついている。牙の生えた口のような場所はぱっくりと開き、蛇のごとき二枚舌がちらちらと踊っている。大きな角・長い尾・黒い翼・体中を覆う鱗、どれをとっても人間ではない。無論、動物園や図鑑でお目にかかれるような存在でもないようだ。  化け物は細い路地で器用に体を動かし、手近にいる高校生を締め上げている。哀れな高校生は顔を真っ赤にし、じたばたともがいていたがやがてぐったりと手を垂れてしまった。 「何ということを!おのれ化け物、許せん!!」  亜河は拳をわななかせ、眼光鋭く化け物を睨み付けた。 「待てよ亜河、あいつの力は並じゃないゼ。俺らだって逃げるのが精一杯だったんだ。」 阿緒はいきり立つ亜河の腕を押さえ、なだめた。だが、それは正義と使命に燃える亜河に油を注いだだけであった。 「何だって!お前達、襲われている人達を見捨てて逃げてきたのか?!」 「あんなのに敵うわけがない。仕方がないだろう。」 久呂は冷ややかに亜河から視線をそらせた。久呂の言うことは尤もではあるが、亜河の正義魂はそれを許しはしない。例えここで我が身果てようとも、化け物の手から善良な高校生・市民達を守らねばならぬ。 「お前が逃げても、俺は行く。俺は奴を倒さねばならん!」
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