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第三話 運命の開戦
亜河は路地の奥で暴れ回る化け物を見据え、猛然果敢に駆けだした。化け物は化け物で亜河の存在に気付き、ゆっくりと正面に亜河を据えた。
「喰らえ正義の鉄拳!」
亜河ははっきりと叫び、化け物に向かって拳を振り上げた。だが、如何せん化け物は身の丈3メートル、亜河とはリーチが違う。亜河の拳が化け物に振り下ろされる前に、化け物の拳が亜河に浴びせられた。亜河は為すすべもなく吹っ飛ばされ、久呂達のいる場所まで転がってしまった。
「亜河!」
悲鳴に近い声を上げて桃が駆け寄る。亜河は唇を切ったらしく、口の端から血を流しながら上半身を起こした。桃は真っ白なハンケチを取り出し、亜河の血を拭った。そのハンケチこそ、朝方桃と亜河を結びつけた運命のハンケチであった。二人の視線が再び交錯し、情熱の炎が燃え上がる。
「桃、俺なら大丈夫だ。今すぐ逃げろ。」
「あなたを置いて逃げるなんて、私には出来ないわ!」
桃は涙混じりに頭を振った。
だが、亜河はゆっくりと立ち上がると、化け物が立ちはだかる路地の奥をねめつけた。化け物は確実に亜河を狙ってやってきている。
「俺が奴を引きつけている間に、逃げてくれ。」
「あなたが傷ついているというのに、私は逃げるだなんて嫌よ。私も戦うわ!」
桃もすっくと立ち上がり、亜河の傍らに並んだ。
「例えここで果てようとも、あなたと一緒なら構わないわ。」
「桃…君がそこまで覚悟を決めているなら、共に戦おう!」
亜河と桃は化け物が目前に迫っているにもかかわらず、手と手を取り合い、潤んだ眼差しを交わしあった。そこには、最早化け物どころか久呂や阿緒、紀伊達も存在しない。二人だけの愛情に満ち満ちた空間であった。輝かしいほどの愛が二人を包み、恍惚と喜悦が二人を陶酔させる。
すると、その時、遙か頭上からまばゆい光が差し込んだ。
「素晴らしい!」
光に目が眩み、目を細めて上空を見上げた亜河、桃、久呂、阿緒、紀伊の耳に朗々たる声が響き渡った。
「誰だ!?」
久呂が誰何の声を上げる。その声に応じるように、五人と化け物との間に何者かがふわりと降り立った。真っ黒い長髪、真っ黒い瞳、真っ黒い長衣、青白い肌という風貌は、どことなく死人を彷彿とさせる。だが、細面のその人の頭の上には、神々しい光を放つ輪がぷかぷかと浮かんでいるではないか!
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