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02 趣味
お父様の面倒な縁談話がひと通り終わって、アウレイナス殿下と会う日取りも一週間後に決まった。
そもそも王子との接触なんて地雷確定なので極力避けていたんだけど、どうして求婚されているのか本気で謎である。
今世ではパーティーなどにも顔見せ程度しか出てないし……。
まぁ、分からないことを考えても仕方がない。ここからは趣味の時間に走るとしよう。
あたしは自分の部屋に隠している衣装に着替える。
その衣装はお父様の要らなくなった衣服を侍女のセリナに繕わせて、あたしのサイズにしてもらったものだ。
趣味というのは男装して、こっそり家を抜け出して町を歩くこと――あたしの男装は中々手が込んでいて、魔法で金髪を銀髪に変化させ、目の色を青から琥珀色に変えて、さらに得意のメイクで顔つきを男っぽくしている。
これで、誰が見てもあたしだって気付かれない。その上、男に言い寄られるようなことはない。
私が考えに考え抜いた知恵である。頭いいでしょ。
「さてと、誰にも見つからないように注意して……」
あたしは屋敷の2階からジャンプして木に飛び移り、部屋を抜け出した。
よーし。自由な時間を満喫するぞー。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アーツエルヌの城下町はいつも賑わっている。この国は商人たちが活発に動いているおかげで、アイテムなどの流通が良く、冒険者たちがよく立ち寄るからだ。
前世の記憶でもこれ程の人の数が町を闊歩している様子などほとんど見たことがない。
アーツエルヌ王国は豊かな国である。
さて、特に何を買いに来たわけではないのだが、面白そうな物がないか見て回ろう。
へぇー、綺麗な石だなぁ。魔導結晶って言うんだー。
値段はどれどれ、うわっ15000レグルもするのか。アップルパイ1000個買えるじゃん。
「オジサマ、こちらのピカピカの石をくださいな」
そんなことを思っていると、隣から声がした。ひぇ〜〜、これ買うんだ……。お金持ちじゃないか。
あたしは興味本位で声の方向を見る。
長い黒髪の美少女が微笑みながら指をさしていた。
何……この娘、天使みたい……。
前世を合わせてもこれ程、美しい女の子は初めて見る。
透き通るような白い肌、ルビーのように輝く瞳、神々しさすら感じる立ち姿は芸術のようだった。天使みたい……。
店主も思わず見惚れていたのだろう。返事をするまでかなりの間が空いた。
「――そ、そりゃあ金さえ払えば構わねぇけどよぉ。嬢ちゃん、金はあるのかい?」
「もちろんですわ、使用人に持たせておりますの。ジョー、早く来なさい。会計を済ませるのです」
黒髪の美少女はくるりと後ろを振り向きました。
使用人付きで買い物ということは、どこかの貴族の令嬢だな。しかし、こんな石ころに15000レグルをポンと出せるのは凄い。
「は、はい……只今参ります! お嬢様!」
後ろに控えていた、執事風の黒髪の男性が駆け足でこちらに向かってきている。
身だしなみもキチンとしているし、やはり貴族だったか。どこの家の子でしょうか?
「オラオラ、貴族様がでけぇ面で歩いてんじゃねぇよ! ここは、タイガーファミリーのシマだって、知ってんのかぁ? ああん?」
赤髪の大柄な髭顔の男が、チンピラみたいな子分を5人ほど引き連れて因縁をつけ始めた。
デカイ声で威嚇する。典型的なタカリ屋の手口だな……。
「な、な、何をする!」
ジョーと呼ばれた執事風の男は胸ぐらを掴まれ、金貨のはいっているであろう袋を取られてしまった。
白昼堂々と強盗とは……。この辺りも治安が悪くなったもんだ。
「ひゃーはっはっは! たんまり入ってるぜ! ご苦労なこった。おおっ! しかもこの女、やべぇくらいの上玉だなぁ。こいつも持って帰って、奴隷市場に売りに行きゃあ……くくっ、いい金になりそうだぜ! おいっ! 野郎共! こいつを連れて帰るぞ!」
赤髪の男は黒髪の美少女の腕を掴み力尽くで連れ去ろうとしている。
さらに誘拐とは……まったく下衆を通り越してゴミクズみたいな奴だな……。
周りの男たちも彼らを怖がって止めないとは、情けない……。
「――待てよ、髭ダルマ!」
あたしは見かねて髭面の肩を掴む。こんな奴、野放しにするなんて……あり得ない!
「なんだぁ? 銀髪の兄ちゃん、オレ様に何か――。――ぶはっ!」
「へぇ、よく飛ぶもんだ。ボールみたいな体格だもんな」
問答無用。髭面が振り向いた瞬間、あたしの拳は顔面を捉えて吹き飛ばす。
黒髪ちゃんはあ然として、こっちを見ている。可哀想に怖かっただろう。
――さぁて、後5人か。どうしてやろうかな……。
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