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46 不運と幸運
「呪縛開放……。貴女に溜まっていた因果のエネルギーを開放させてもらったのよぉ。貴女には88回分の不運による呪いに近い負のエネルギーが魂に溜まっていたの。それを、妾が身体に循環出来るように調節したわぁ。そう、貴女は体に溜まった不運のパワーだけは誰にも負けない。自信を持ちなさぁい」
フィーナがドヤ顔で私の力について説明をする。
確かに、婚約するた度に破棄されてたけど、その不運って呪いの力とかになって溜まっていたの?
なんか、体中から禍々しい蒸気が吹き出して、自分の体だけど引いちゃう。
えっ、なにこれ? こんなドロドロとしたモノが私の体の中に溜まっていたの?
「ぐっ、凄まじい邪悪なエネルギー……。クリスティーナよ、君はその美しい魂の中にそんな穢れた力を隠していたのか?」
ハデスまで私から吹き出ている漆黒の蒸気にドン引きした表情をしていた。
「神ともあろう者が表面的な美しさに捕らわれるなんて無様ねぇ。知らなかったのぉ、美しい女っていうのは、誰もが闇を抱えているものなのよぉ」
フィーナは相変わらずドヤ顔で説明しているが……。
知らない……。私だって知らない。
自分の身体の中にこんな禍々しくて、ドロドロしたドス黒いモノが溜まっていたなんて……。
いや、すっごい力は感じるんだけど、今なら何でも出来そうな万能感だってあるんだけど、それ以上にショックが大きくて軽く放心状態だ。
でも、ケビンとメリルリアが目を覚ましたら、ハデスを殴り飛ばしてでも逃げなくちゃ。
そうだ、フィーナだってそれが目的で私の力を開放させたんだし……。
「クリスティーナよ……」
ハデスは意を決したような顔で私を見据えてきた。
くっ、動揺しているスキを狙おうと思ったが無理そうだ……。
私が身構えていると、彼は次の言葉を吐き出した。
「我と婚約破棄をさせてくれ……」
「…………はい?」
場が凍るという意味を私は89回目の人生で初めて体感できた。
各国の王族や貴族から婚約破棄をされた経験はあれど、神様から婚約破棄されるのは当たり前だが初めてだった。
「フィーナの言うとおり表面的な美しい魂に心を奪われたが、君の魂に溜まっていた穢れに、こういうことは傷つけることになるから言いたくないのだが……萎えてしまったよ……。いや、神である我が胃もたれを起こすなど、数千年生きてきて初めて知った……」
ああ、どうやらハデスは私の不運と呪いの力を目の当たりにして冷めてしまったようだ。というか、人のこと見て胃もたれって何気に傷つくんだけど……。
はぁ、永遠の愛とか言っときながらコレだよ。
これだから男は信用出来ないんだ。
だが、婚約破棄されて嬉しいと感じるなんて、婚約すると必ず台無しになる自分の体質に感謝することになるなんて、思ってもみなかったな。
今世は驚きでいっぱいである。
そこまで読んでいたのか、いなかったのか分からないが、フィーナはケビンとメリルリアの魂を身体に戻してくれたみたいで、二人はよろけながらも立ち上がっていた。
「ケビンとメリルの魂に手を出すな。それが婚約破棄の条件だ」
私は状況を把握して二人の身に害を及ばさないように条件を出してみた。
「わかった。手を出さないことを約束しよう」
ハデスは疲れ切った表情で二人に手を出さないことを約束した。
疲れたのはこっちだよ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「だぁーはっはっは、神様に婚約破棄されるとは、もはやそれはオメーの特技だな」
ケビンはわざとらしい大声で笑っていた。
ハデスから解放された私たちはいつものように、レストランの事務所でお茶を飲んでいる。
「ケビンさん、失礼ですわ。メリルは絶対にルシア様の特技を掻い潜って幸せを掴んでみせますの。ですから、わたくしと婚約を……」
メリルリアは私の前世ことを話した後も自然体で話しかけてくれていた。
しかし、婚約破棄を特技扱いするな。
「フィーナ様はああなることを見越していたのですか?」
私は魂の力とやらを開放したフィーナに質問した。
「まさかぁ。さすがの妾もぉ、冥府の神がドン引きするくらい禍々しいオーラを発生させるなんてぇ、予想できなかったわぁ。ちょっと、貴女に同情しちゃったもの。今度、美味しい最高級モンブラン買ってくるわねぇ」
フィーナはクスクスと笑いながら答えた。
いや、私に溜まったあのドス黒い闇はモンブラン如きで払拭されるわけが……。
でも、まぁ、一度試してみてもいいか。
私は最高級モンブランを楽しみにした。
いつもの日常がとても貴重に感じられる。
生きたいと願ったあの時……。この人たちと共に過ごしたいと本気で想った。
今の時間が過ごせる喜びが、88回の婚約破棄を吹き飛ばすことが出来るくらいの幸運に感じられる。
もちろんこの先も環境が変わったり、色んなことが起きるだろう。
しかし、私はもう俯かない。前を向いて希望を捨てずに歩いていこう。
そう、人生は長いって言い切れるように……。
そんなことを思っていると、『ガチャり』という音と共にオーナーであるバーミリオン伯爵が入ってきた。
「おお、ルシアよ。突然、消えたと聞いていたが、無事に戻ってなによりだ。フィーナ様も色々と助けて頂いたみたいで、ありがとうございます」
バーミリオン伯爵は私の無事に安堵してくれたみたいだ。
「ご心配をおかけして申し訳ありません」
私はバーミリオン伯爵に頭を下げた。仕事を頑張るにつれて、彼は私を大事に思ってくれて、今では本当の父親のように仲良くしてくれている。
「妾は別に大したことはしてないわぁ」
フィーナは素っ気ない返事をしていた。
「無事ならば、さっそくルシア=ノーティスに辞令を言い渡す。東の島国、【アキサメ王国】で来月オープンするバーミリオングランドホテルの支配人に君を任命する。頑張りたまえ!」
バーミリオン伯爵による驚愕の辞令。
いや、環境が変わっても前向きに頑張るって言ったけどさぁ……。
「わぁ、素晴らしいですわ。ルシア様ぁ、わたくし、新婚旅行の候補地にアキサメ王国はピックアップしてましたの」
「サポートは俺に任せろ。オメーとならどんな所でも上手くやってみせるぜ。うぉーっ、楽しくなってきた!」
「あら、アキサメ王国にも別荘を買わなくちゃいけなくなったじゃなぁい」
あれ? 三人とも付いてくる気満々なんだ……。
これは、婚約破棄の感慨に浸っている場合じゃないな。
よしっ、次は忍者と侍の国、アキサメ王国で頑張るぞっ!
新たな決意を胸に秘めて、私は新天地で力いっぱい生きることを誓ったのだった。
第一部 完
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