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05 親友
「ふわぁ、ねむいよぉ」
あたしは大きなあくびをしていた。
というのも、夜遅くまで、フィーネから如何に殿下との婚約が重要なのかという講義を受けたせいで睡眠不足気味なのだ。
今日はあたしの数少ないお茶友達のマリーナが家に遊びに来ている。
マリーナはアーミリット伯爵の次女であたしと同い年の幼馴染だ。
いろいろと拗らしているあたしとも仲良くしてくれるだけあって懐の広い優しい娘である。
「はははっ、聞いたよクリス。あんた、アウレイナス殿下と婚約するんだって? 男嫌いのあんたがよーく決心したねぇ」
マリーナは青髪をかき上げながらケラケラと笑っていた。
あーあ。他人事だと思って面白そうにしてるし……。
「ちょっと、誰に聞いたんだよ? というか、婚約してないからね。求婚されていて、顔も見せずに断るわけには行かないから1回会うだけだよ」
あたしは言い終わると紅茶を一口飲んだ。
冗談じゃない。誰が婚約するもんか。
「アウレイナス殿下から求婚ねぇ。年頃の娘だったらこぞってあんたに嫉妬するよ? なんせ、殿下は国中のアイドルだからね。どうせ、あんたはそんなことも知らないんだろうけど」
マリーナはクッキーを選びながら、説明をしていた。へぇ、アウレイナス殿下って人気者なんだ。
「うん、全然知らない。というか、マリーナだって“年頃の娘”だろ? あたしに嫉妬してるの?」
あたしは本当に今世はどの男がどんな評価なのか全然知らない。そんな情報は全てシャットダウンしていたから。
世間の評価などアテにならないことを私は知っている。
「そうだなぁ、嫉妬してるっちゃしてるよ。あんた、可愛いし、頭も良いし、運動もできるでしょ、弱点ないじゃーん。あー、殿下が羨ましい。もー、私の嫁になりなよー」
マリーナはからかうような口調で楽しそうに話している。
茶化してるけど、あたしの本心は理解してくれてるんだよね。ホントにいい子だ……。ありがとう。
「あたしもマリーナの嫁なら行ってあげても良いんだけど。フィーネの馬鹿がさ、縁談を壊したら許さないって、脅してくるんだ」
「あはは、フィーネちゃんもあんたと別の方向で拗らしているもんね。難攻不落のクリスティーナさんも年貢の納め時なんじゃないの?」
「はぁ、お父様より、我が妹にビビるとは。我ながら小心者だ。嫌だなぁ、アウレイナス殿下が他の娘を好きになればいいのに。例えば、バーミリオン家のお嬢様とか」
あたしは心の底からの願望を吐露した。
先方から断りを入れられれば、フィーネにも言い訳が立つもんね。だから、何としてでも断られなくてはなー。
「なんで、そこでバーミリオン伯爵の所の娘が出てくるのよ。でも、あんたが知っているって意外だったわ。メリルリアちゃん、ちょっと犯罪的に可愛いわよね。あれは反則。おまけに金持ちだし」
マリーナが頷きながらそう言った。犯罪的って表現はどうなんだろう?
メリルリアが可愛いのは異論はないが……。
「でも、あんたの期待通りにはならないわよ。なんせ、メリルリアちゃんは惚れた男を金に物言わせて探しているからね。今日さ……、ここに来る前に聞いたんだけど。恩人を探しているんだって、結婚するために」
「へぇ、あのメリルリアちゃんが……、恩人? へっ、恩……じん?」
あたしは嫌な予感がして、ぞくりとした。
ちょっと待ってくれ。恩人という言葉に心当たりがありまくりなんだけど。
「確かねぇ、ルシアって名前の銀髪が特徴の男でさ、ものすごく腕っぷしが強いんだって。その男羨ましいよねー。逆玉の輿確定よ、確定。はぁ、お金持ちが空から降ってこないかなぁ」
ルシアって、あたしじゃないか。メリルリアはあたしの事を探しているのか。そりゃ、注意しなきゃな。
それにしても……。
「――お金持ちが空から降ってきたらどうするんだよ? マリーナは時々意味がわからないな」
「えっ、そりゃあキャッチするよ。がっちり」
「いやいや、腕が折れるじゃん絶対に」
「大丈夫だもん。フワフワした感じでゆっくり落ちてくるから」
「なんだそりゃ。ははっ」
あたしとマリーナは内容があるんだか、ないんだか分からない話で盛り上がり、楽しい時間はすぐに終わってしまった。
結局、殿下との婚約を回避する方法は全く思いつかなかったな。
そもそも、殿下がなんであたしを好きなのかが分からないのがつらい。まったく、男を避けたらこうなるって意味が分からないよ。
明日こそいい方法が見つかりますように――とあたしは明日の自分に期待をすることにした。
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