14 驚愕

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14 驚愕

 一週間後、アウレイナス殿下とメリルリアとの約束の日がやって来た。  今回は遅刻しないように、セリナの言うことを聞いてキチンと着替えた。セリナは意外そうな顔をしていた。 「結局、何も思い付かなかったなぁ。仕方ない、小細工はやめて、自然に早く切り上げられるように努力しよう……」  あたしは不安を抱えていたが、覚悟を決めていた。殿下は正直、苦手な感じだが、優しい方だし無理に引き止めないだろう。  殿下とは城門の前で待ち合わせである。もちろん厳戒態勢の中だが……。 「ふっ、待たせてすまぬな。クリスティーナよ。今日もその……、美しいな」  城門から護衛を引き連れて、出てきたアウレイナスは開口一番そう言った。  普通なら躊躇してしまうようなセリフも自然に出てくるあたりが彼らしいところなのだろうが、あたしは少し引いてしまう。 「あははっ……、殿下もそのう、お元気そうで何よりです」  あたしは精一杯の笑顔で殿下に挨拶する。  今日も相変わらず爽やかな人だこと……。 「アウレイナス……、アウレイナスと名前で呼んでくれぬか?」  殿下はあたしに名前で呼んで欲しいようだ。断っても逆に失礼だろうしなぁ。ここは、希望通りにしておこう。 「畏まりました。アウレイナス様とお呼びしますね」 「おおっ、生まれて20年ほどだが、名前で呼ばれることがこんなにも嬉しく感じたことはないぞ。礼を言う、クリスティーナよ」  何とまぁ、大袈裟な……。あたしは、5分も経っていないのにもう疲れていた。   「それでは、参ろうか。今日は町で女神生誕祭をやっておるからな。そこを二人で練り歩こうというデートプランだ」  アウレイナスはニコリと微笑みながら説明した。  何というか……、すごく普通だ……。普通なんだけどぉ……。  あたしは殿下の後方をチラ見した。  約50人の武装した兵士たちがきれいな整列をしてズラリと並ぶ。指揮しているのはあたしの上司でもある、騎士団長。  いつもの倍くらいの大きな声で檄を飛ばしている。 「いいか、アウレイナス殿下とクリスティーナ様のデートの障害は我等が命を賭しても排除するのだっ!」 「「うぉぉぉぉぉ!」」  気合を入れる兵士たちに、あたしはドン引きしていた。  うわぁ……、こんなの後ろに引き連れて町を歩いたりしたら良い見世物だよ……。  あたしは引きつった笑みを浮かべていた。 「案ずるな、クリスティーナよ。さすがにこれは大所帯過ぎる。余が一声かけてこよう」  アウレイナスは優しくあたしの肩を叩いて、騎士団長に声をかけた。  すると騎士団長は少しだけ残念そうな顔をして、兵士たちを下げた。 「護衛はごく少数にしてもらった。これなら、楽しんで歩けよう」 「あっ、ありがとうございます」 「うむ」  ホッとして、あたしはアウレイナスにお礼を言って、彼は頷いた。  ようやく出発である。長い一日が始まった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇  町中に出店が並んでおり、あたし達は祭りを堪能する。まぁ、食べ物は毒味されたりもあったけど……。 「ほぉ、中々面白い細工だな。ふむ、ムラサメ王国の技術か。なるほど……」  アウレイナスは民芸品を置いている出店の前で、興味深そうに紙細工を見ている。  彼は何を見ても楽しそうだった。 「クリスティーナ、何か欲しいものがあれば、遠慮なく申してみよ。余がプレゼントしよう」  きれいな歯を見せながら、商品の棚を見るように促した。  これは……、遠慮したら失礼だし、何か適当な物を……。  あたしは商品を見ようとした。  そのとき、後ろから聞き覚えのある声がした。 「あれぇ? ルシアじゃん。どうした? 今日は随分とまぁ、可愛らしい格好じゃねぇか」  あたしは声を聞いて心臓が止まりそうになった。どーして、今は男装もしてないし、髪の毛は金髪なのに……。  後ろから、青髪の半裸の男が手を振りながらこちらに近づいてくる。  あの男は、前にメリルリアがタイガーファミリーとかいうのに絡まれていたときに、乱入してきたケビンだ。  あたしは、慌てて彼に駆け寄った。これ以上、変なことを言われるのはマズい……。 「どっ、どうして、あたしがルシアだってわかったの? とにかく、今のあたしはクリスティーナだから。変なことを殿下の前で言わないで」  あたしはケビンにヒソヒソ話をした。 「あー、俺ぁ、ちょっと特殊な“眼”持っててね。隠された“真実”を見通せるんだ。まっ、オメーが躊躇なく男の股を蹴り上げたのに違和感があったから、ちょっとな。クリスティーナってのが、本当の名前か。いい名前じゃねぇか」 「そう、クリスティーナだ。頼む、“ルシア”の名前は今は使わないでくれ」 「ふーん、いいぜ。別にオメーに何かしてぇとかじゃねぇし。偶然見つけて声かけただけだからよぉ。あれ? あいつって、まさか……」  ケビンは今ごろアウレイナスに気が付いて顔を青くした。  そりゃあ、一国の王子がこんな所に居たら驚くよね。  アウレイナスはケビンの顔を見るなり、早足でこちらに向かってきた。  優しかった顔付きが険しくなっている。 ケビンに腹を立てているのだろうか?   しかし、アウレイナスのケビンに対する第一声はあたしの想像を遥かに超えていた。 「この国にいつ帰って来られたのですか? 兄上っ!」  はぁ? ケビンがアウレイナスの兄ってまさか……。だって、半裸だし……。  あたしは驚きすぎて口が閉じられなくなってしまった。
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