帰省

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帰省

e3fee5f4-71c5-4cc2-9990-fd440c067b4c ──新緑が輝かせる夏の日差しが好きだ。それは、まるで木の葉のイルミネーション。夏の風物詩をくぐり抜け実家へと帰ってきた。地元は360度山に囲まれた田舎にある。こんな狭い土地なんかに収まってたまるかと飛び出し都会へ出たが、空が狭いこの世界では、翼を広げることはできなかった。 最寄りの駅から家まで歩けば40分かかる。いつも車で迎えに来てもらうが、今日はどうしても寄りたい場所があった。休日の昼間だというのに、駅に人は少なく、でも見覚えのある顔もいる。そんな閑散とした駅前から歩いて10分ほど、私がいた中学がある。帰ってくる間に電車のなかでふと聞いたGReeeeNの曲が中学時代の記憶を呼び起こした。私にとって中学時代というのは、今の私自身を大きく作り上げた時間だった。 中学校は、県内で一番大きな川から土手を挟んですぐ横にある。私達がその頃の半分を過ごしたプレハブ校舎は、跡形もなく消え去り、思い出を駆り立てるようなセピア色に近いペンキで塗られた新校舎は、甘い色彩をしている。校舎からグランドを挟んだ先にある川の土手では、部活動でランニングによく使われる。夏になると土手の一部にミントが咲き、周りに生い茂る雑草とは、一味変わった香りを放つ。川を挟んで向かいにある大きな工場では、しいたけの加工をしていて、お昼過ぎになるとおならのようななんとも例え難い臭いがする。しかし、この臭いも今では、哀愁の香りとなって川風に乗り私に届く。 山に囲まれた小さな小学校時代の私は、4年生から転校してきたため、対立することが多く馴染むことはなかった。それに比べて中学は、市内でも1.2を争う生徒数で、よりどりみどりのたくさんの友達を作ることができ、とても恵まれた環境であった。小学生時代は少年野球をしていたが、私は野球部には入らず弓道部を選んだ。弓道部は、比較的落ち着いた人が多かったが、陽気な自分が馴染めるのかという心配を簡単に払拭するかのように、どんな人でも受け入れてくれる人達だった。 それとは逆に、普段学校で話したり、放課後遊んだりするメンバーは、自分と同じく陽気なメンバーが多かった。学年には、テストで94点という高得点をとっていながら95点を越えなかったというなんとも羨ましい理由で悔し泣きする秀才や、賢いと思いきや勉強以外は、馬鹿げたことばかりするやんちゃ物、休み時間ずっと一人で本とにらめっこする読書家、尾崎豊の歌のように校舎の窓ガラスを割るヤンキー。本当にいろんな人種がいて、飽きることがないであろう日々を送っていた。そんな私の人生を大きく狂わせたのが、中学時代なのだ。
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