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あまのじゃく
西日が黒板を照らし、眩しさがノスタルジックな雰囲気を作り上げた教室。本来であれば、西日が教室に差さなように建てられる。新校舎再建のため、グランドの一部に作られたプレハブでは、まるで漫画の世界に入ったような幻想的な教室の姿を見せることがある。なぜ部活も行かずここ残っているのか、それは目の前にある机の上に置かれた一枚の紙が物語っている。
帰りのあいさつの時間に今日中に出すように、と渡された紙には反省文というもじがかかれ、ながながと文字をかく罫線が丁寧に並んでいる。入学から一年も立たず何枚も書いてきた自分にとっては、反省文をかくことは簡単になことだった。何度も書いているとコツが分かってくるのだが、大まかに分けて3つの構成で作ることができる。まず1つ目は事実を書き、2つ目は事実についての反省、そして最後に反省をどう活かすのかという今後の目標である。たくさん並んでいる罫線を大体3分割してから文章を考える。反省文の書き方を頭でシミュレーションし、紙に細く尖ったシャーペンの芯を当てようとしたとき。
「おい、バックレようぜツバサ」
後ろを振り替えると私と同じく反省文の紙を机に置いたナオヒロがリュックを片手で持ち今にも教室を出ようという態勢になっていた。
「無理だ、まだ先生が教室に残ってるだろ?」
2人でバックレを諦め、また机に向かおうとしたとき、1つのアイディアが降りてきた。そうだいい考えがあるともう一度後ろを振り返るとナオヒロは、机から乗りだし期待の目を輝かせている。
「モリタを使うんだよ」
「は?モリタに何ができるだよ」
ナオヒロはモリタを見下しているようだが、クラスで勉強ができ、真面目なのになぜかお調子者で乗せられやすい人物、そんなモリタが俺達の役に立たない訳がない。早速モリタを上手く口車に乗せ、先生の元へ向かわせた。
「先生、今日の課題で質問があるんですけど」
モリタは指示通りナオヒロと俺から教室の出口までの脱走路が見えない向きから話しかけた。その隙にリュックに必要なものを詰めタイミングを伺う。
「ナオヒロ、今だ!いけ!」
机になにも書かれていない反省文だけを残し、2人で生徒玄関まで全速で駆け抜ける。教室は一階にありタイミングさえあえば難しいことではない。教室を出てすぐにある渡り廊下を渡った先、生徒玄関で靴を履き替えていると、さっき通った渡り廊下の奥から先生の呼び止める声が聞こえる。ここまで来て引き返すことはできず、外靴を履き終えるとすぐさま走りだした。反省文を書かなかった罪悪感と全力で走って面倒から逃れる事に成功した高揚感。この2つが脳の中を駆け巡ることで、飲酒か麻薬を摂取したかのような恍惚感に浸ってしまう。悪知恵がよく働いてしまうのだ。このまま早い時間に帰ると親に疑われるため、部活用の体操着袋から、何枚か取り出しくしゃくしゃにしわをつけて、また袋の中に戻す。時間を潰したいが、お金は持っていない。帰り道にある本屋やゲーセン、コンビニをぶらついて帰った。
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