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翌々日の土曜の朝、俺は徹夜で予定の問題集を終わらせ、図書館に行くといって朝早く家を出た。
LINEにはあれから、俺が数学で行き詰っていることや、母も風邪をひいたことなど、ぽつぽつとメッセージを送っていた。
全て既読になるのだけれど、返信は無い。
もし具合が悪いまま、部屋で倒れたらと、勉強中に何度も考えてしまう。
これでは受験勉強の妨げになる。
支障をきたす。
頭を掻きむしって辿り着いた答えが、「会いに行く」だった。
市内から、鹿児島空港に行くバスに乗り、空港で乗り換えて鹿児島市へ向かうルートを使う。
車やバイクに乗れないのが心底不便だ。受験が終わったらすぐに免許を取ろうと思った。
リュックに問題集と参考書を放り込み、ワイヤレスイヤホンで着信を逃さないように備えた。
バスの外には、夏の日差しに褪せた木々の緑が流れていく。
エアコンの効きが悪いバスのなかでうとうとしてしまい、鹿児島空港に着くころには少し頭痛がし始めていた。水分補給をして、気分の悪さをなんとか追い払おうとする。
鹿児島市内に着くと、家庭教師の契約書から写した住所を元に、彼女の家を訪ねた。
鹿児島港の見える街の一画だ。パームツリーが周りを囲む、思ったより豪華な外観で、入っていくのに気後れした。
302号室。ドキドキしながら階段を駆け上がる。背中のリュックで問題集が跳ねた。
先程までの頭痛が、胸やけに変わり、緊張もあいまって、その場でしゃがみ込みたい思いに駆られる。時刻は正午近く。炎天下のなか歩き続けたせいで、喉もカラカラだ。
躊躇しつつ、カメラ付きのインターフォンのボタンを押す。
ドアの中からは何の気配も感じない。俺ってストーカーみたいかな、と今更思う。
帰って、と言われたらもちろん帰る。
ただ、顔が見られればよかった。
「はい」
意外と元気な声が、小さなスピーカーが発する。
思わず前髪を直しながら、
「鮎川です」
と名乗った。5秒くらいの間があり、カチャリ、とチェーンロックが外れる音がした。
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