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「あいつ、舌腐ってるだけだから…… ほら、明日シメといてやるから気にすんなって!」
「そうだって! 白鳥さんのケーキ、お店のチョコレートケーキみたいで美味しかったよ! 俺ら二人が保証するから!」
その後も二人は慰めの言葉を並べるが、あたしにとっては何の慰めにもならなかった。
小走りで校門を出ようとするあいつ、もうこのままあいつに関わらないでいれば楽になれるかもしれない、同じクラスではあるが話をしなければいいだけのこと、あんな舌のイカれた和菓子屋の馬鹿ボンボンなんかに関わったあたしが馬鹿だった。
さようなら
だが、本当にこれでいいのか? ここまで自分の作ったお菓子を侮辱されてこれでいいのか? このまま一方的な侮辱で終わっていい話なんかじゃない!
あたしは気力を振り絞り、踵を返し、校門を抜けようとするあいつを大声で呼びつけた。
「天童紘汰ァ! 待ちなさい!」
あたしが全力で怒鳴るとあいつは小走りだった足を止めた。そして「まだなにかあんのかよ」と言いたげな顔でツカツカと近づいてくる。
あたしは右手をぴんと伸ばしあいつを指差した。人様に指をさすなと両親からは教えられているが、そうせずにはいられなかった。
「決めたわ! あたし、絶対にあんたに美味しいって言わせるようなお菓子作ってやる! 覚悟しておきなさい!」
それを言うあたしの心臓はこれまでに無いぐらいに激しく早い鼓動を打っていた。これまでの短い人生経験において初めてのことだった。
あたしは足早に校門を抜けて走り去った。あいつとすれ違う時に「おう、やれるもんならやってみろや」と言わんばかりに口端を上げたような笑顔を見せていた。あたしの挑戦を受けたと言うことでいいのだろうか。
こうして、あたしとあいつのお菓子戦争の狼煙があがったのだ。
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