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あたしは梟首一郎のことをどう思っているのだろうか…… 友達なのは当たり前で、嫌いではない、むしろ尊敬できる男だと思っている。
天涯孤独で施設育ち、あたしみたいな平々凡々と生きてきた頭に唐菓子の詰まったような女なんかには想像も出来ないような苦労をしてきてるだろう、だが、それを微塵も感じさせないぐらいに明るいクラスの人気者、こばと園の一番のお兄ちゃんとして多くの子達の世話をしているのも知っている、奨学金制度でうちの高校に通っているのも知っている、成績が落ちれば奨学金は打ち切られる、そうならないように常にすごく勉強に励んでいるのも知っている。常人であれば絶えられない程の重荷を背負って生きる16歳の少年、尊敬するには十分だ。
その尊敬する男があたしを好きだと言う…… 正直な話、ちゃらんぽらんなあたしには不釣り合いだ、でも、一緒にいて彼を支えて上げたいという思いもある。支えると言っても、お菓子を作ってあげたり、エールを送ることぐらいしか出来ない。
あたしは梟首一郎の右手を握ろうとした、だが、見えない壁があるのか、あたしが内心では拒否をしているのか、どうしてもその右手を掴むことが出来ない。
あたしは震える手でその右手を掴もうとするが、その瞬間、脳裏に「誰か」の顔が浮かぶ、
男であることはわかるのだが、誰の顔かまでは分からない。
体の震えが右手を麻痺させる。雪が降っていて体が凍えているのだろうか。
そうこうしているうちに梟首一郎は右手を引いた。
「やっぱり…… 知ってた。多分そんなことだろうと思った」
何一人で理解してるのよ。あたしは何一つ分かってなくて、体が動かなくて困惑してるのに。
「俺、卑怯だった。あいつを出し抜こうと先に告白したのに駄目だった」
「え? あいつって誰よ」
「いっぱいいるよ。でも、白鳥さんがオッケーする相手は多分一人だけだと思う。俺はその人じゃなかった。それだけの話」
あたしよりあたしを知ったような口を聞かないでよ……
「俺、こんなこと言って気まずくなるかもしんないけど…… 三学期からも普通に接してくれると嬉しいな」
「それはいいんだけど…… あいつって誰よ? 梟首くんにトドメ刺すようで悪いんだけど、あたし、一度も人を好きになったことないんだけど」
それを聞いた瞬間に梟首一郎は大笑いをした。何がおかしいのよ。
「朴念仁! 早めに素直になんないと一生後悔するぞ!」
梟首一郎は走り去ってしまった…… 何だったのだろうか。
あたしは梟首一郎の最後の言葉に疑問を持ちながら帰宅の途に就くことにした。
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