8 聖なる夜に丸太を叩き込む

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家に帰ったあたしは、リビングでこたつに入り亀のようになっている弟にブッシュ・ド・ノエルを差し出した。そして、暗所に入れておいたシャンパンを開ける。 毎回天井の蛍光灯に直撃しやしないだろうか、窓ガラスを割りやしないだろうかとヒヤヒヤものだ。 「うん、美味しいよ。でもこれ、チョコ…… じゃないよね」 「あんこです」 「ふーん、あんこでケーキって作れるんだ……」 あたしは唐突な話を弟に振ってみた。 「あんたさぁ、好きな女の子とかいたりする?」 ぶっ! 弟は吹き出した。口はキチンと閉じていたお陰か大惨事にはならなかった。 「いきなり何言ってるんだよ!」 「いるかいないか言いなさいよ」 「いねーよ、そんなの。それに女子と遊ぶなんてカッコ悪いじゃん」 あたしは聞く人間を間違えたと心底後悔した。この歳だと女子なんて生意気なだけの異星人みたいなものね。 しかし、あたしという姉がいるなら女の子慣れしていてもおかしくないのに、こんなことを言うとは…… 少し悲しいかな? 「でもね、嫌いな女子だったらいるよ。ねーちゃんに似てる女子でね? 嫌いだから、ハゲって悪口言ったり、鉛筆取り上げたり、ノートに落書きしたり、ランドセルにタックルしたり、椅子蹴っ飛ばしたりしてるんだ」 とんでもないガキだ。いつかその娘の家に天童赤鷹の羊羹持参で謝りに行くことになるかも。 「もうやめなさい。それで『ごめんね』って謝りなさい。いいね?」 「でもこうしないと話してもくれないんだ」 こんなことする奴と話したい女子なんているわけがない。 「僕が何かするとつっかかってくるのが面白くてさぁ」 下らないいじめじゃない。あたしが男なら顔面変形するぐらいに弟を殴りに殴ってその子の前に差し出してやりたいぐらいよ。 「でもそいつも酷いんだよ、可愛いから話しかけたのに無視するんだよ」 その子のお眼鏡にあんたが適わなかっただけだけでしょ…… 諦めなさいよ。だからって暴力に訴えるのは野獣と変わらないよ。 「いいから、次学校に行ったら頭を下げて謝りなさい。いいわね」 「ぶー」 弟は頬をふくらませた。この頬にビンタでもくらわせてやろうかしら。我が家に福来病の到来よろしく下膨れの顔にしてやろうかな。 とは言え、子供同士の喧嘩に大人が介入するのは良くない。弟が言うことを聞いて謝ることを祈るしかない。 弟がなぜそんなことをするかの原因は分かっている。 好きな女の子にちょっかいを出すと言うやつだ。 ほんと、男の子って不器用なんだから……
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